2017 Fiscal Year Research-status Report
明治期国立博物館所蔵鳥類学標本群成立過程の解明と標本情報の現代的意義に関する研究
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16K01193
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
加藤 克 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 助教 (50321956)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 さやか 公益財団法人山階鳥類研究所, 自然誌研究室, 研究員 (70414092)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 標本史 / 鳥類標本 / 山階鳥類研究所 / 帝室博物館 / スミソニアン協会 / オーストラリアンミュージアム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,スミソニアン協会アーカイブおよびアメリカ国立自然史博物館に所蔵されているアーカイブおよび標本台帳の調査を実施した.この調査により,1877年および1887年に自然史博物館から,現在の東京国立博物館と国立科学博物館に送付された鳥類標本の全容を明確に把握する史料を発見した.この史料を利用することで,現在山階鳥類研究所に所蔵されている帝室博物館由来の鳥類標本約3,300点のうち,4割弱にあたる1,300点のアメリカ国立自然史博物館から送付された標本群の,旧蔵機関における標本管理番号と採集日,採集地,採集者,採集者の管理番号,博物館への登録年次などの正確な採集情報を得ることが可能となり,現時点において山階鳥類研究所で公開されているデータベース情報の不十分,不正確な点を追加,修正する道筋を整備した. あわせて,アーカイブとして保存されている採集者のフィールドノートを悉皆調査した.この情報を通じて,博物館標本台帳に記載されていない周辺情報や標本を利用して発表された研究成果との照合を行い,現存標本の研究資源としての価値向上につながる情報を追加する体制を整えた. 発表した成果としては,前年度までに実施した調査結果をふまえた,帝室博物館における標本管理体制と台帳の意義について報告し,その結果からもたらされる現存標本に追加される標本情報を公開した.この結果は,鳥類学分野への貢献だけでなく,日本の博物館史の考察の上でも重要な成果と考えている.また,学会発表として,博物館の標本台帳と採集者のフィールドノートを利用することで,失われたと考えられていたタイプ標本を再発見したこと,自由集会で標本史研究の意義について報告を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年間の研究事業において,オーストラリア,アメリカ由来の標本の入手経緯,旧蔵機関における標本情報などの調査は予定通り完了した.これらの調査から得られた現存標本に付属する情報,帝室博物館における情報,旧蔵博物館における情報,関連アーカイブの情報などを照合し,現存標本に詳細かつ正確な付与するためのデータベースの整備も順調に進んでいる.一方で,データベースによる情報整理によって諸史料間での情報の矛盾や混乱が存在することも見出され,これらの解釈,整理に若干時間を要している.また,本事業の最終的な目的の一部である,日本における標本管理の実態を示す重要な材料となる日本からアメリカに送られた鳥類標本の調査については,アメリカ国立自然史博物館の標本台帳を基に標本数や交換時期など,情報としての全体像を把握したが,現存標本数が想定よりも多数であったために,付属ラベルの状況調査など時間を要する詳細調査を実施する日程が整わず,次年度に実施せざるを得なかった. オーストラリア由来標本については情報整理が終了し,500点弱の標本情報を追加,整理した結果を論文として投稿中である.また,標本交換の史料調査によって,現在国立科学博物館に所蔵されているオーストラリア由来哺乳類標本の採集情報を復元するという,本事業の当初想定範囲を超えた成果も得られた.これらについても論文として投稿中である. 最終年度に予定しているパリ自然史博物館との標本交換に関わる史料の残存状況についての事前調査も順調に進んでおり,現地調査を効率的に実施する準備を整えている.
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Strategy for Future Research Activity |
山階鳥類研究所に現存する帝室博物館標本約3,300点のうち,旧蔵機関の標本番号が付属し,標本台帳やアーカイブとの照合が可能とみられるのはアメリカ,オーストラリア,フランス由来のものである.事業最終年度にはフランスに残されている標本交換に関わるアーカイブ調査,博物館の標本台帳を利用した採集情報の調査を行い,従来明確になっていなかった日本とフランス間の標本交換の歴史を解明する材料を探索するとともに,標本台帳から得られた情報をデータベースに登録し,現時点で,不充分,不正確であると考えられる標本情報の再検討を実施する. アメリカ,オーストラリア,フランスの3機関に保存されている標本情報によって,帝室博物館標本の6割弱にあたる標本情報が整備されることになる.また,残る4割の大部分を占める日本で採集された標本の管理の歴史についても,これまでのオーストラリア調査で得られた情報に加え,最終年度に実施するアメリカ調査の結果から,おおよその見通しが得られる見込みである. 成果報告としては,アメリカ由来標本群の全体像に関する報告,標本群に含まれていることが確認されたタイプ標本の状況に関する報告,アメリカ時代に実施された研究利用に関する報告など,複数の発表を予定している.すでに投稿中のオーストラリア由来標本に関する2編の報告とあわせて最終的な標本情報のとりまとめを行い,これらを標本所蔵機関である山階鳥類研究所,国立科学博物館に提供し,標本の研究資源としての価値を向上させるための材料とする計画である.
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Causes of Carryover |
スミソニアン協会国立自然史博物館に所蔵されている日本由来の標本に関して,入手した標本台帳情報の調査の結果,想定以上の標本が保存されていることが判明した.付属ラベルの悉皆調査を実施するために必要な調査日程の調整が困難であったため,次年度に実施することとした. 効率的な調査を実施するための準備,所蔵元との調整は順調に進んでおり,次年度早々に実施する予定である.
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