2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K01194
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菊池 敏正 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (10516769)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 保存 / 修復 / 復元 / レプリカ / 文化財 / 彫刻 / 伝統技法 / 木彫 |
Outline of Annual Research Achievements |
近現代美術に大きな影響を与えた学術標本について保存、修復に関する研究は非常に重要な研究課題の一つであると考える。一方で、学術標本の修復研究は過去に例が少なく、損傷が激しいものも多く存在する。本研究は、大きく欠損し展示公開が困難な学術標本に対し、文化財修復技術と3Dデジタルデータを応用した復元方法を研究するものである。更には、文化財と同様に「学術遺産」として長期的に活用できるよう、復元レプリカを応用し、大学博物館における「展示」と「保存」双方の課題を補う目的を持つ。 本研究において、学術標本の復元研究をおこなう主な研究対象は、過去に構造技法研究を進めた東京大学が収蔵する木製標本である。文化財保存修復の分野では修復対象の構造や技法は重要な項目である。学術標本における復元研究を進めるにあたり、必要な構造技法については調査を継続して実施する。平成28年度は、明治期の洋画額、ミイラ副葬品等の調査を実施した。ミイラ副葬品については、3Dデジタルデータ等を活用することで、制作当初の姿を追求することも可能であり、今後の研究テーマとして検討している。復元制作は保存方法としても有効な手段であり、且つ三次元的な情報発信へとつながることも期待できる。学術標本の復元技術について海外学術調査、国内学術調査を交えながら、最も有効な復元方法を検討する。復元した模型標本は、研究成果として広く展示公開する事を視野に入れている。研究から成果発表までを包括的に進める事が本研究の特徴でもある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東京大学博物館、及び東京大学医学部所蔵標本について損傷の激しいものを対象に調査を行い、3Dレーザースキャニング計測を実施した。3Dデータを活用した復元制作に着手すると共に、明治期の洋画(肖像画)の修復研究についても進めることができた。特に肖像画については、美術作品としても非常に興味深い作例であり、修復研究によって公開することも可能となった。現在までに復元、修復の双方共に実践的に研究を進めることができている。木製標本については、亡失部分の木材(木地)での復元を完了させる予定である。また、現存する部分のレプリカ制作も同様に進める予定である。3D入出力装置でまかなえない部分については、手作業での復元になるが、3Dデータを活用することにより作業効率が上げていく計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
学術標本を研究対象として技法、材料の視点から修復技術及び複元技術を研究していくアプローチは、これまでに無い試みである。国内で制作された模型標本には、他にも日本の伝統技法を用いたものがある。仏教文化に育まれた伝統技法が、近代化の進む日本で衰退していく中、多方面へ広がった痕跡が学術標本には現れている。同時代の仏像制作技法との関係性を示すだけでなく、今後の模型標本の修復にも大きく役立つものになると考える。現代において歴史的に意義のある学術標本を収蔵する研究機関は数多く存在する。しかし、修復技術が確立されていない場合、損傷の激しいものについては処分される可能性が大きい。研究機関が収蔵する学術標本は、未だ美術史的希少価値を見いだせていない状況にある。学術標本の再検討には非常に役立つ研究となる。修復された標本は、展示公開を通じて学術標本という共通認識のもと、国際的に研究機関の交流を進める事が十分に可能である。
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