2017 Fiscal Year Research-status Report
言語音がわかりにくい高次脳機能障がい者とともに作る生涯学習施設の放送音声
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16K01196
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
三谷 雅純 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (20202343)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 視聴覚実験 / 高次脳機能障害 / 失語症 / 失認 / 生涯学習施設 / 災害放送 / 公共放送 / 公共交通 |
Outline of Annual Research Achievements |
高次脳機能障がい者にはどのような緊急災害放送が認知しやすいかを、肉声への非言語情報の付加に注目して探った。また聴覚認知が難しい高次脳機能障がい者は、肉声以外に何を手がかりに情報を理解するのかを探った。
緊急災害放送では、高次脳機能障がい者は音は聞こえるが認識できないことがある。その内容を非言語情報の付加から確かめるために視聴覚実験を行った。実験には、障がい者と比較検討する対象として非障がい者が参加した。設問は①「棒読み」と「リズムを強調した読み」、②「棒読み」と「棒読み」にチャイムを付加した場合、③「朗読」と「歌」で、それぞれどちらが理解しやすいかを聞いた。①から、女性発話者の「リズムを強調した読み」が理解しやすいとした回答が多かった。②で障がい者はチャイムの有無が十分認識できなかった。③は多くが「歌」が理解しやすいと回答した。今後は、緊急災害放送において男女が交互にアナウンスするなどの工夫をし、現在のチャイムでは高次脳機能障がい者の注意喚起ができないので、アラームの工夫が必要であると結論した。
次に人のコミュニケーション行動の多感覚性を模したマルチメディアDAISY形式の文章、イラストレーション、両者を合わせたものをそれぞれ作成し、男女の職業アナウンサーの肉声再生と同時に表示して、高次脳機能障がい者に理解できるかどうかを聞いた。すると両者を合わせたものは障がいの重い人も理解したが、文章だけでは非障がい者と重い障がいの人の手がかりに、イラストレーションだけでは軽い人の手がかりになっていた。目の前にいる人の語りは、ほとんどの人が理解した。マルチメディアDAISYは人に見られる多感覚統合とは異なる。しかし、制御しやすいマルチメディアDAISY形式は、人のコミュニケーション行動に類似したアクセシブルな情報伝達手段として、人の多感覚統合の研究にも応用可能であると結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高次脳機能障がい者と非障がい者に被験者になってもらって、緊急災害放送の聞こえの認知を調べる実験を行っている。実験から、男性発話者よりも女性発話者の「リズムを強調した読み」が理解しやすいとする回答が多く、障がい者では、注意喚起を促すはずの特定のチャイムが十分認識できないことが分かった。このことを原著論文として「福祉のまちづくり研究」に公表した。
人のコミュニケーション行動の多感覚性を、高次脳機能障がい者と非障がい者で、マルチメディアDAISY形式の実験素材で調べると、文章表現とイラストレーションで障がいの重い/軽いによって差が出た。高次脳機能障がい者と非障がい者のマルチメディアDAISY形式による反応の差は解釈が不明であるが、目の前にいる生きた発話者の語りは、障がいの有無に関係なくほとんどの人が理解した。このことを原著論文として「人と自然 Humans Nad Nature」に公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
3点の推進方策を考えている。1点目は、聞くことがにがてな高次脳機能障がい者が注意喚起作用を受けなかったと考えられた本実験で使用したチャイムは、本当に注意喚起力が低いのかを確かめる必要がある。また日本ではさまざまな音が注意喚起に使われているが、どのような音が高次脳機能障がい者の注意喚起に役立つのかを確かめる必要がある。さらに、音以外の注意喚起として、津波到達予想図で使われているような光アラームや携帯電話の振動によるアラームについても考えてみたい。
2点目に、人の多感覚統合に類似したアクセシブルな情報伝達手段として盛んに研究・開発されているICTだが、聞くことがにがてな高次脳機能障がい者には、どの程度、利用可能なのかがまったく分かっていない。高次脳機能障がい者の助けを借りてこのことを確かめ、人間のコミュニケーション行動の本質を探りたい。
3点目に「聞くことがにがてな高次脳機能障がい者」と同様の失認は高次脳機能障がい者以外にもあるかもしれない。例えば高齢の認知症者には失認の可能性があるだろうし、一部の発達障がい者には聴覚情報処理障害と呼ばれる失認現象が知られている。このような失認の実態を調べたい。
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Causes of Carryover |
平成29年度は人件費の支出が少なかった。平成30年度は本研究の成果によるワークショップを計画しているため、外部から研究者を呼ぶ旅費や謝金の不足分を補う予定である。
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Research Products
(7 results)