2017 Fiscal Year Research-status Report
南海トラフ沿岸に分布する津波巨礫の宇宙線照射年代測定による津波履歴の復元
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16K01223
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
前杢 英明 法政大学, 文学部, 教授 (50222287)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 津波 / 宇宙線照射年代 / 南海トラフ / 南海地震 / 津波堆積物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、南海トラフに面した和歌山県南部に分布する津波漂礫、およびそのソースとなった岩盤の岩石を直接採取し、津波によって破壊された後、宇宙線にさらされて岩石中の鉱物が崩壊して生成される、宇宙線核種の生成量を測定することにより、津波発生年代を限定することを目的としている。昨年度、津波漂礫や津波によって破壊された岩盤の宇宙線照射年代測定を行うために、試料の化学処理の準備過程として、試料の岩石を1ミリ程度までに細粒化し、さらにマグネティックセパレーターで磁性鉱物の除去を行った。しかし、研究に協力して頂いている東京大学大気海洋研究所の測定装置に不具合が生じ、化学処理や加速器を使った原子レベルの測定まですすむことができなかった。本年度に向けて機器の調整中であるとのことだったが、機器の調整に想定外の時間がかかっているとともに、機器が止まっていたため、当該校でのユーザーが優先となり、本年度内に計測することができなかった。年代測定スケジュールの調整のため、協力していただいている研究者との打ち合わせを行った結果、30年度5月~6月には計測できる状況になることを確認した。そのような状況の中で本年度は、以前の研究で採取していた、串本町のボーリングコアを利用して、コアから得られた細粒堆積物中の珪藻化石の属種分析と、その上下に堆積している粗粒な津波堆積物の関係を知ることが重要と考え、珪藻分析の情報収集と、粗粒な津波堆積物が宇宙線照射年代測定に適合できるかどうかについて、和歌山県南部の試料を中心に分析をすすめた。珪藻属種分析については、その分析方法、研究手法について習得できたため、現在試験的に堆積物から珪藻化石を抽出して、鏡下で観察する分析をすすめている。ボーリングコア中の粗粒堆積物の宇宙線照射年代については次年度の課題として、さらに調査研究をすすめていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
宇宙線照射年代測定を数千年とか数百年前の試料に応用するのは、国内外を含めて最先端の研究であり、そのため、使用する試料の質と量の確保がきわめて重要であると考えている。このような状況の中で、通常宇宙線照射年代測定に必要な試料の量の10倍以上の硬い岩石を、直径1ミリまで粉砕する必要がある。現在、和歌山県串本町の津波漂礫、および岩盤から採取した岩石試料を、細かく粉砕し、石英を抽出し、磁性鉱物を除去して、年代測定装置に入れることができる状態まで準備できている。研究に協力していただいている研究者の所属機関に設置されている年代測定装置(加速器質量分析計)が29年度末くらいから正常に動き始めたとの情報を得ており、測定装置の不具合が解消されたらすぐに年代測定にとりかかれる状態である。また、コア試料を利用したテフラや微化石の解析も順調に進んでおり、津波堆積物か堆積する前後のラグーン内の水文環境について、珪藻を利用して新たな知見も得られ始めている。これらの分析を現在顕微鏡を使ってすすめている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究に協力していただいている東京大学大気海洋研究所と連絡を密に取り合いながら、化学処理実験や年代測定の計画を詰めていく予定である。平成29年度末での打ち合わせにより、平成30年5月~6月には年代測定が可能となることを確認しているため、年代値が得られ次第、考察と研究の取りまとめに取り掛かりたい。また、宇宙線照射年代以外の方法で得られた南海トラフ津波発生履歴と比較するため、ボーリングコア中に含まれるテフラ、珪藻、有孔虫などの微化石も応用して、南海トラフでの津波発生履歴の総合的な解明を目指す予定である。ボーリングコアの新たな採取も関係研究者と協力して行いたいと考えている。また、南海トラフ周辺のプレート収束域との津波の比較研究として、琉球海溝や千島海溝の津波履歴に関しても、津波漂礫の探査、および文献収集などの基礎調査なども行っていきたい。
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Causes of Carryover |
(理由)年代測定に消耗品費用がかかると見込んでいたが、年代測定装置の不具合により測定が次年度に延期になったため、実験消耗品や実験謝金などの費用に未使用額が生じた (使用計画)30年度には年代測定が可能であると確約を得ているため、未使用分の研究費は主に実験消耗品や実験謝金として使用する計画である。
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