2016 Fiscal Year Research-status Report
空中写真を活用したラオス山村における土地利用と森林被覆の変化に関する研究
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16K01227
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
中辻 享 甲南大学, 文学部, 准教授 (60431649)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 航空写真 / CORONA衛星写真 / 土地利用 / 集落 / 森林 / 焼畑 / 戦争 / ラオス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はラオス山村の土地利用変化を長期的に検討しようとするものである。具体的には、1945年~2011年の集落分布や土地利用の変化を、空中写真の画像解析と対象地域の住民への聞き取り調査から明らかにする。対象地域は北部ルアンパバーン県シェンヌン郡のA村の村域(約20平方キロメートル)である。特に注目したいのは、第二次インドシナ戦争期(1960年~1975年)の変化である。この戦争がラオス山村に与えた影響は大きかった。地上戦や空爆を避けての移動や政府や軍隊の命令による移動により、山地民の激しい人口移動が起こったのである。そのため、この戦争はラオスの山地部の集落分布や土地利用を塗り替えたと言っても過言ではない。 平成27年度までの調査に加え、平成28年度は、世帯数や耕地面積の増減が森林にどう影響したかを明らかにするため、対象地域の2.24平方キロメートルの石灰岩台地を対象に植生区分(森林、叢林、草原、畑地の4区分)を行なった。 研究の結果、対象地域では、戦争期にその前後の時期に比べ激しい人口移動が起こり、一時的に人口が大きく増加したこと、そうした人口増加の結果、未利用地の開拓が押し進められ、それにともない森林の劣化が生じていたことが明らかになった。これまで、ラオスの森林の劣化については、1975年の社会主義政権成立後や1986年の市場開放政策実施後に焦点を当てて論じられることが多かった。しかし、本研究のような事例からは、戦争期の状況についても十分に考慮する必要性が示唆されるのである。 平成28年度の最大の成果は、以上の研究を英語論文にまとめたことである。現在、この論文は投稿中である。今後は、この事例を「戦争中の人口移動が森林にどのようなインパクトを与えるか」という視点から世界の紛争地域の事例の中に位置付ける作業を行いたい。こうした研究はまだ少なく、その意味で本研究の意義は大きいといえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的に関する論文を一つ書き上げることができ、研究に一区切りついたため。論文作成のため、春期休暇中に予定していたラオスへの渡航ができなかったが、平成29年度の夏季休暇中にこれを行うことで対応ができるため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に、約20平方キロメートルの地域における70年間の土地利用史を明らかにし、特に、第2次インドシナ戦争の影響について考察することができた。先述した通り、今後は本事例を「戦争中の人口移動が森林にどのようなインパクトを与えるか」という視点から世界の紛争地域の事例の中に位置付ける作業を行いたい。 また、今後はより広域的にこの問題を考えることを試みたい。これまでの対象地域は20平方キロメートルであったが、隣接地域も含めた場合はどうか、あるいは他地域ではどうかということも検討しなければならない。まずは、A村も含めた100平方キロメートルの土地利用史を検討することから始めたいと考えている。 さらに、すでに購入した画像分類ソフトeCognitionを使って、空中写真の画像解析を行うことも試みたい。空中写真から広域的な土地利用を明らかにすることが難しいのは、土地利用分類を目視判読で行なっているためである。これを、画像分類ソフトにより、自動化することができれば、広域の土地利用変化の解明が容易になる。本研究ではこれを試みたい。 アメリカ国立公文書記録管理局(NARA)所蔵の航空写真の標定図を統合する作業も今後の課題である。NARAにはラオス各地の1940年代~70年代の航空写真が保管されている。これは過去の土地利用や自然環境の状況を知るための資料として、貴重である。その標定図については、すでにスキャンした画像をNARAから入手した。しかし、これは数百枚にもわたる大部のもので使いにくい。そこで、GISを用いて、ラオスの地図上にこれらの標定図を載せる作業を行う。これにより、地域ごとの航空写真撮影頻度の多寡が示されるし、年代や撮影範囲といった属性から航空写真を検索することも可能となる。
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Causes of Carryover |
本研究は10月に追加採択され、11月末に科研費が交付決定された。したがって、科研費を使用する期間が4ヶ月程度しかなかったことが大きな理由である。また、春期休暇期間中は研究計画に従えば、ラオスに渡航する予定であったが、論文作成に時間がかかり、渡航できなかった。さらに、購入予定のパソコンやモニターに関しては、まだ古いものが使用可能であったため、購入を遅らせることにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
夏休みにできるだけ長期間ラオスに渡航し、対象地域でのデータ収集に努める。さらに、ラオスの古い航空写真をできる限り収集することに努めたい。例えば、1950年代末にアメリカがラオス全土で撮影した航空写真は大変鮮明なものであり、第2次インドシナ戦争以前の集落分布や土地利用の状況がわかる貴重なデータである。これを例えば、ラオスの一つの県のものについて全て購入することを考えている。
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