2017 Fiscal Year Research-status Report
視覚野神経活動から予測される脳刺激型人工視覚のシミュレーションと評価
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16K01354
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
八木 哲也 大阪大学, 工学研究科, 教授 (50183976)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林田 祐樹 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10381005)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電気刺激 / 視覚野 / 人工視覚 / 光覚 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
網膜の機能障害によって全盲となった障碍者の失われた視覚機能を、脳視覚野に埋植した電子回路システムによって部分的にも再建させようという研究(脳刺激型人工視覚)が世界的に盛んになって来ている。ただしこの技術によって、どのようなレベルの視覚情報が得られるかは明らかにはなっていない。本研究の目的は、動物実験とバーチャルリアリティ技術を応用したシミュレーションによりこの問題を明らかにすることである。今年度の実績を以下に記す。 1.動物実験による解析 脳刺激型人工視覚がどのようなレベルの視覚機能を再建できるかを神経科学的側面から検討するために、げっ歯類の視覚野に電気刺激を行いその応答を解析した。まず様々な刺激頻度、パターンにおける皮質回路の応答の時空特性を、単一の電極刺激で解析した。次に2本の電極を一定距離、離して刺入し、刺激がどのように干渉するかを解析した。その結果、皮質回路は高頻度の刺激パルス列に対し、一過性に応答する成分と持続的に応答する成分があること、また繰り返し刺激に応じて、応答範囲が除々に狭まることが分かった。また実際の脳型人工視覚で想定される電極間距離、電流強度では複数の電極による皮質応答は、ほぼ線形加算的であることを示唆する結果を得た。 2.VR技術を応用したシミュレーション 以上の実験から得られた結果に基づいて、光に惹起された光覚の特性をモデル化し、昨年度開発したウェアラブルシミュレータに組み込み、仮想視覚野を多点で刺激した場合の光覚パターンをヘッドマウントディスプレイ上に実時間で再現した。このシミュレータは、仮想視覚野上に任意に電極を配置したときの予測光覚パターンを提示できる。HMDには、アイトラッキングカメラが装着され、眼球運動にともなう網膜上の光覚パターンのずれを補正することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標と、進捗状況を項目別に以下に述べる。 1.動物実験 目標は、電気刺激によって惹起される皮質回路の時空間特性の定量化、その生理学的メカニズムの解明、および複数電極間の干渉の有無の検討、であった。これらの内容は、2で述べるシミュレーションのために必要となる、実験では、電気刺激によって惹起される皮質回路の応答を電位感受性色素によって記録し、その時間経過、空間的広がりを詳細に解析した。特にここでは臨床的にも使用が想定される繰り返し頻回刺激を行った場合、その応答に一過的な成分と持続的な成分があることを見出した。さらに空間的な広がりについては、興奮性信号と抑制性信号の競合が重要な役割を果たすことを見出した。以上は現在英文論文にまとめ、国際誌に投稿準備中である。 2.光覚パターンシミュレータ開発 CMOSイメジャーカメラ、アイトラッキング付きヘッドマウントディスプレイおよびVR用パーソナルコンピュータから成るシミュレータを完成させた。アイトラッキングは、シミュレータとしては非常に有用な機能であるが独自開発の敷居が高かったので当初の計画には入っていなかった。にもかかわらず今回開発にこぎつけた点は当初計画以上の成果である。またこのシミュレータに対し、上記の動物実験で明らかとなった視覚野回路応答の時空間的な性質を組み込んで、実時間でダイナミックに光覚パターンを予測する機能を装備した。以上の汎用的な光覚パターンシミュレータは国内外において見当たらない。この成果は、国内学会において発表し、現在国際誌に投稿するための論文として執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.動物実験による電気刺激パターンの知覚・認識評価 人工視覚の開発には、動物実験によって電気刺激による光覚の知覚・認識が成立しているかを評価しながら、システム設計を行う必要がある。最終年度では、実験の中で用いられてきた範囲の電気刺激によって、パターン知覚・認識が可能なレベルの視覚が得られるかを評価する。このために電気刺激の強度や電極間距離を変化させながら①単一の電極から異なる時系列パターンで視覚野へ通電した刺激を弁別可能か、②単一電極を用いた刺激と、複数電極を用いた刺激を弁別できるか、を実証実験する。 2.光覚パターンシミュレータの開発と心理物理実験 より有用な視覚再建を行うためには、両側の脳へ電極を埋植することが必須であると考えられる。昨年度までに開発した仮想視覚野を両側脳へと拡張し、より現実に近いVRシミュレーションとして、シミュレータを完成させる。完成させたHMDシミュレータを、健常視覚者に装着し、仮想視覚野上の電極パターンを変化させながら、実験室環境で心理物理的な視覚評価実験を行う。実験としては、①縞模様などの繰り替えしパターンの時空間周波数を変化させ、その周波数の弁別閾値を評価する。②簡単な文字列を提示し、認識時間を評価する。③視覚障碍者誘導タイルによるナビゲーション実験を行う。 以上の成果を学会発表するとともに、論文にまとめて国際誌に投稿する。
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Research Products
(5 results)