2017 Fiscal Year Research-status Report
日本における体操の思想と動きに関する歴史的基礎研究
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16K01643
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Research Institution | Hiroshima International University |
Principal Investigator |
崎田 嘉寛 広島国際大学, 薬学部, 准教授 (60390275)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 体操史 / デンマーク体操 / 齋藤由理男 / 三橋喜久雄 / ニルス・ブック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本における体操の思想と動きに内在する独自の意義について、歴史的視点から明らかにすることである。 研究2年目にあたる本年度は、前年度までに発掘・収集した資料に基づいて、日本における体操の思想性に関する史的考察を行なった。具体的には、収集した資料を「体操論」(体操について表明された意見)として遺漏なく考察対象として、既存の体操に対して価値判断を行なった人物として、三橋喜久雄、齋藤由理男、鬼束鉄夫、堀内豊秋などを特定した。続いて、彼らがどのような文脈で自身の体操論を構築しているかを把握し、彼らの「体操思想」(体操論を意味づける文脈)を導出することを試みた。この際、可能な限り、体育・スポーツ界の動向、教育、経済、軍事、社会の趨勢を含めて考察することに努めた。加えて、考察の幅を拡充するために、彼らの縁故者に対して聞き取り調査を行なった。 次に、戦前期の日本における体操に関する映像資料の本調査を前年度の予備調査の結果に基づき実施し、収集した映像の分析を行なった。特に大学資料室、郷土資料館、映像関連会社の調査を重点的に実施した。主要な資料のみ示せば、『ニルス・ブック氏とその指導』(1931、玉川学園)、『映像名不詳(自由学園におけるニルス・ブック一行の実演)』(1931、自由学園)、『映像名不詳(リッター・クローン女史によるデンマーク体操指導ほか)』(1934、自由学園)、『海軍と体操』(海軍省、1941)、『錬成する国鉄』(鉄道省、1943)である。これらの映像分析は、フレーム単位で映像を確認し、ショット単位の内容と撮影方法を筆耕し、シーンに分類した上で、紙媒体などの資料との比較分析を行なった。とりわけ、紙媒体資料における図版や静止画からは抽出することが困難な、「動き」の歴史性を明らかにすることに留意した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題は、体操史研究の歴史区分として、1920年代後半から1950年代前半(昭和初期から昭和30年まで)を設定し、(1)この間において既存の体操に対抗する価値判断を行なった人物を包括的に抽出して、(2)その思想性を解明するために、「体操論」、「体操思想」、「体操理論」を明確に区分して体系的に考察し、(3)加えて歴史叙述に重層性を持たせるために、映像資料を収集することで、体操の「動き」そのものの歴史性を分析し、(4)日本における体操に関する歴史像を再構築することである。 前年度までに上記(1)の課題は大部分が達成できており、本年度はいくつかの細部の課題が残っているものの、上記(2)および(3)の本年度分の課題がおおむね達成できた。また、懸案であった映像資料の収集も当初計画通りか、それ以上に円滑に進展している、と判断している。また、得られた成果の一部を学術登録団体で報告した結果、成果に妥当性があると判断されたとの手応えを得ている。そして、報告の成果は、現在、学術登録団体に投稿しており、その審査結果を待っている最中である。よって、これまでの進捗状況から、上記(2)および(3)の来年度分の課題、および上記(4)の課題に対する具体的な見通しを得ることができた。 以上のことから、おおむね順調に研究が進展していると裁定した。
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Strategy for Future Research Activity |
3年間を予定している本研究は、おおむね順調に進展しており、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での重要な課題は生じていない。最終年度となる平成30年度の研究計画に関しても、当初の計画通りに進める予定である。 前年度までに実施した体操思想の考察と映像資料の「動き」の分析結果に基づいて、研究対象の「体育理論」(体操についての統一的な説明体系)を明らかにする。既存の体操(機械的な運動の反復で身体を鍛える)との差異を抽出するために、知的、道徳的、感情的、美的側面がどの程度「体操理論」に反映されているかを考察する。具体的には、1940年代の前半と後半で「体操理論」にどのような変化や改編がなされているかを、前年度までの成果に基づいて考察する。たとえば、国鉄体操、千葉県市原市の戸田小学校での体操実践などは好個な対象となり得ると推定され、これらに関連する資料を補足して考察を行なう。 加えて、前年度に本調査を実施した映像資料の補完調査を行なう。補完調査では、前年度に実施できなかった必要最低限の対象および再調査が必要な箇所を調査するに留める。 最後に、研究総括では、これまでの学術評価の結果に基づいて、日本における体操の思想と動きに内在する独自の意義について総合的に考察する。また、1920年代後半以前と1950年代後半以後との断続点をどのように描くことが可能なのかを案出する。なお、本研究では、戦前と戦後の単純な比較はせず、かつ戦中を特殊な期間として取り扱うことはしない。そのため、最終的な分析結果の歴史記述に偏りを生じさせないために、学術登録団体での研究発表および投稿を通じて、成果の学術的価値を検証する。
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Research Products
(2 results)