2018 Fiscal Year Research-status Report
地域スポーツ推進体制をめぐる構造的矛盾とソーシャルガバナンス
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16K01649
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
柳沢 和雄 筑波大学, 体育系, 教授 (60191152)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ソーシャルガバナンス / 総合型地域スポーツクラブ / 指定管理者 / 障害福祉 / 自治会組織 / 市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、地域スポーツ推進体制が抱える構造的矛盾を明らかにし、それを克服するソーシャルガバナンスの在り方の検討を目的としている。 まず新自由主義思想及びソーシャルガバナンスの理論的背景の整理を試み、構造的矛盾を「新自由主義VS市民社会」という視点から検討した。その後、市民社会を志向する総合型地域スポーツクラブと民営化を志向する指定管理者との関係、さらには多様なアクターとの協働関係を検討するための事例研究に取り組んだ。事例は、(公社)全国スポーツ推進委員連合主催の全国研究協議会における過去の発表資料を収集し、グッドガバナンス事例を抽出し、資料収集及びヒアリングを行った。調査対象となった事例は滋賀県A市(人口約5万5千人;高齢化率約23%)で、A市生涯学習課長、A市スポーツ推進委員会委員長を中心にヒアリングを行った。また、市長、教育長とも面談した。 A市では市民の意識調査等のデータを基にスポーツ推進計画を策定し、地域課題を明確化し、”つなぐ”、”総動員”をキーワードとしたガバナンスを展開し、ライフステージに応じて様々な団体や行政機関と連携を取りながら生涯スポーツ環境を整備していた。特筆すべきA市のガバナンスは、地域福祉を活かしたスポーツの推進、地域資源を活かしたスポーツの推進である。A市は障害福祉・地域福祉支援に力を入れており、体育協会内に障がい者専門部を持つ。また総合型クラブもパラスポーツの教室を行っており、地域福祉事業をめぐっては健康政策課、保険年金課、高齢福祉課等との協働関係が形成されていた。また、地域資源の活用をめぐっては、区組織・自治会組織があり、きめ細かな事業が展開されていた。各地区のコミュニティセンターはこの自治会組織が指定管理者となっており、市民社会構築への志向がみられた。また、A市出身のトップ競技者の活用や近隣自治体と連携体制も構築されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
地域スポーツ推進体制の構造的矛盾を検討するため、総合型地域スポーツクラブを焦点組織に措定したアンケート調査を行う計画であった。しかし、ガバナンスに関わるステークホルダーが多様であるとともに、自治体の特性に大きな差異があるため、アンケート調査では表層的なデータしか入手できないと判断し、研究方法を事例研究に変更した。また、対象となるグッドプラクティスの探索については、学会や研究会等での情報収集に時間を要した。とりわけ、スポーツ推進体制の核となる役職の方へのヒアリング依頼が可能な事例抽出に時間がかかった。さらに、現地に赴いてのヒアリングや資料収集を行う時間の確保は容易ではなく、研究が遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
調査対象である滋賀県A市の市立図書館に赴き、A市の市史に関する資料収集を行う。今年度のヒアリング及び資料収集により、A市のスポーツ推進体制を理解するためには、”つなぐ”、”総動員”といった推進体制のキーワードが派生してくるA市の成立過程や生活史を理解する必要があると考える。とりわけ障害福祉を支援するに至った地域的な背景や生活史、自治会組織を発展させねばならなかった生活史について、市町村合併以前からの資料を収集し、生活史とスポーツ推進体制の関係性を検討する。 また、スポーツ推進体制を築いてきたキーパーソンに対するヒアリングも行う。総合型クラブ、指定管理者、体育協会、スポーツ少年団等スポーツ関係者はもとより、自治会役員にもヒアリングを行う。さらに、現地に赴いてみると、。A市は近隣自治体との経済や文化をめぐる自治体間競争が激しいと感じた。A市が市の特徴を出し、スポーツ文化を充実することが自治体としての差異化戦略として位置づけられている状況が把握できると考えている。そのために、関係者による市行政のガバナンスを司ってきたトップのリーダーシップについても情報収集をしたい。 これらA市の成り立ちや生活史を背景にしながら、スポーツ推進体制の形成過程や特性を明らかにし、市民社会を志向する住民主導によるスポーツ推進体制の可能性やそのソーシャルガバナンスを議論する。
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Causes of Carryover |
スポーツ推進体制をめぐるソーシャルガバナンスについてアンケート調査を行う予定であったが、スポーツ推進体制をめぐるステークホルダーが多様であること、また自治体間格差が大きいことを勘案して、研究方法を事例研究に変更したため、アンケート調査費が大幅に減ずることになった。また、事例調査の赴く時間が容易に取ることができず、ヒアリング及び資料収集を十分に行うことができなかった。 今年度は、本研究費により研究員(非常勤)を雇用し、資料収集及びヒアリングに同行してもらい、資料とデータ整理を試みる。また、別なグッドプラクティスとして山梨県B市の事例調査を企画中である。また、ヒアリングのテープ起こしにかかる経費も予定している。次年度使用額は、これら事例調査の旅費及び資料コピー費、研究員(非常勤)の雇用とテープ起こしに充てる予定である。
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Research Products
(2 results)