2016 Fiscal Year Research-status Report
長距離走の戦術としてのペース変化を意図した過渡応答運動に対する生体反応の検討
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16K01715
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
右田 孝志 久留米大学, 健康・スポーツ科学センター, 教授 (00239211)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ペース変化 / 酸素摂取動態 / 時定数 / 緩成分 / 組織脱酸素化レベル / 筋電図 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究課題は、長距離走のペース変化をシミュレートした運動モデルを用いて、ペースアップ前の強度(走速度)の相違がペースアップ後の生体に及ぼす影響を検討した。ペースアップ前後各6分間、計12分間の過渡走運動を実施した。ペースアップ前の走速度は、80%VTおよびVT相当の走速度を用い、ペースアップ後は、VT速度にVO2peakとVTの速度差の40%相当を加えた走速度(⊿40%)を用いた。80%VT-⊿40%のペース変化モデルを「sub-1」、VT-⊿40%のペース変化モデルを「sub-2」とした。 肺胞レベルの酸素摂取量、組織の脱酸素化ヘモグロビンレベル、筋電図データの測定した。酸素摂取量は、ペースアップ前は一次、ペースアップ後は二次の非線形モデルを用いて解析した。脱酸素化ヘモグロビンは1分毎に10秒間のデータを平均して用いた。筋電図のデータは、運動中の1分毎の連続した10回の発火を積分して解析に用いた。 1.ペースアップ後の酸素摂取動態の応答速度を示す時定数は、sub-1が49.1±8.0秒、sub-2が73.4±25.2秒であった。2.sub-1のペースアップ後の応答の時間遅れはほとんど認められなかったのに対し、sub-2の時間遅れは、マイナスであった。これは、ペースアップ前のVT強度の運動の場合、緩成分が出現し、それがペースアップ後の応答速度に加味された可能性が考えらえる。3.両試行におけるペースアップ後の酸素摂取量の緩成分は同程度であったが(173.0 vs 178.4 l/min)、個人内の試行間に大きなばらつきが認められた。4.組織の脱酸素化ヘモグロビンレベルおよび積分筋電図は、ペースアップ前の走速度の影響は認められなかった。以上のことは、ペースアップ前の強度がVT相当までであれば、ペースアップ後の生体に及ぼす影響は大きくない可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、長距離走のレースペース変化をシミュレートした運動モデルを用いて、ペースアップ前の走速度のペースアップ後の生体応答に及ぼす影響を検討した。実験は予定通りに実施でき、得られたデータの基本的な解析を終えた。その結果、本研究で用いた運動モデルにおけるペースアップ前の走速度の影響は、ペースアップ後の酸素摂取動態に影響を及ぼす可能性はあるが、生体への負担度という点での影響は大きくないことが示唆された。この成果は22nd annual Congress of the EUROPEAN COLLEGE OF SPORT SCIENCEにて発表予定である(ポスター)。
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Strategy for Future Research Activity |
長距離走レースのペース変化をシミュレートした運動モデルを用いて、ペース変化を「仕掛ける走者」と「それに追従する走者」で実際の生体応答に差があるのかどうかを検討する実験を開始する。ペース変化を仕掛ける走者の運動モデルは、VT相当での6分間の一定走運動後、引き続きペースアップして6分間の一定走運動を実施する。このペース変化のタイミングは事前に周知する。追従する走者の運動モデルは、ペースアップ前の一定運動を5、6、もしくは7分とし、その切り替えるタイミングの情報を被験者に知らせずに実施する。両試行の運動中、全身の生体応答の指標として酸素摂取量、組織レベルの指標として筋の脱酸素化ヘモグロビンレベル、並びに筋出力の指標として筋電図を測定し、実際の長距離走のペース変化の生体へ及ぼす影響をエネルギー出力および脚筋の出力の点から検討を行う。
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Causes of Carryover |
平成28年度購入予定だった機器の付属品を当初別予算より購入する事を検討していたが、予算の入金が本年度後半になる見込みとなった。早急に実験を開始する必要があるため、前倒し申請を行った結果、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験の被験者謝金、消耗品費、および学会での成果発表のための旅費として使用予定である。
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