2016 Fiscal Year Research-status Report
筋萎縮の回復期におけるクレンブテロール投与の有効性に関する研究
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16K01725
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
鈴木 英樹 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (40235990)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
辻本 尚弥 久留米大学, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (70299519)
北浦 孝 金沢大学, 国際基幹教育院, 准教授 (00143868)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 筋萎縮 / 回復 / クレンブテロール / ギプス固定 / ラット |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度では、筋萎縮からの回復時に筋肥大を誘発する(同化)作用のあるクレンブテロールを投与して、その影響の有無を確かめた。具体的には、ラットの後肢にギプス固定を施して筋萎縮を誘発させた後、ギプスを解放し、その後の回復期間(7日間)にクレンブテロール投与の有無で回復に違いが生じるかを比較検討した。 その結果、クレンブテロール投与を行わない通常回復群に比べて、クレンブテロール投与群では筋重量が有意に重く、クレンブテロールの同化作用は筋萎縮からの回復において回復促進作用があることが示された。 怪我、骨折、疾患等により不活動を余儀なくされた場合、特に下肢骨格筋は著しく萎縮して身体活動能が低下する。これらの筋萎縮や運動機能の低下を正常の状態に戻す処方を確立することは、スポーツ医学、リハビリテーシン、運動生理学等からみて重要な課題である。 本研究において筋萎縮からの回復時におけるクレンブテロール投与による回復促進作用が観察されたことは、先の課題解決のおける貴重な基礎的資料になるものと考えられる。 また、クレンブテロールは速筋に選択的に肥大を誘発するとの報告が多いが、本研究では、遅筋であるヒラメ筋においても回復促進作用が観察された。この現象は、本研究ではじめて示された結果であると思われる。現時点では、すべての分析が済んでいないが、分析を進めることによって、クレンブテロール投与の作用に関するメカニズムが明らかになり、遅筋での作用の解明にもつながることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度では、同化作用のあるクレンブテロールの投与が筋萎縮からの回復にいかなる影響を及ぼすかを解明するため、主に組織化学的手法を用いた分析を中心に研究を行った。 筋重量の結果より、筋萎縮からの回復期でのクレンブテロール投与には回復促進作用があることが示された。また、クレンブテロールの影響が比較的小さいと予想された遅筋においても、かなりの回復促進作用が観察された。さらに、それらの作用を筋線維レベルで観察するために、サンプル筋より連続横断切片を作成し、組織化学的手法を用いた。 具体的には筋線維のタイプ間での違いを観察するために、ATPase染色を用いて筋線維のタイプ分類を行った。それらの結果より、遅筋線維であっても萎縮からの回復期にはクレンブテロールによる回復促進作用がみられることが示された。しかしながら、不活動に伴い骨格筋は徐々に速筋化することが報告されており、さらにクレンブテロールの筋線維タイプ特異的な作用も報告されている。これらの現象を特に遅筋であるヒラメ筋で明確にするには、ハイブリッドタイプの筋線維(タイプの混在した筋線維)の出現を捉えることが重要となるが、酵素法であるATPase染色ではそのタイプの筋線維の出現を同定することは困難であった。 そこで本研究では、筋線維のタイプ分類を当初計画していた酵素法ではなく、免疫組織化学的手法を採用して分析をやり直している。なお、この手法で用いる抗体(一次抗体、二次抗体)は高価であることから、当初の予算では補いきれなくなったため、予算の前倒し請求を行ことによって分析を行っている。他の生化学分析等に関しては、研究分担者のもとで順調に行われている。これらの事情から、現時点では組織化学的分析に若干の遅れはあるが、より信頼性の高いデータを得つつあり、他の分析もほぼ順調と思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度では、筋萎縮を誘発するための不活動としてギプス固定を採用した。また、ギプス固定による萎縮の程度の再現性を確保するために、足関節角度が底屈20度になるような紙粘製の副木を作成し、それを用いてすべての実験動物で関節角度が一定になるように固定を行った(足関節角度20度は、麻酔下状態のラットのナチュラルポジションである)。 分析の方法を変更したため、平成28年度中に予定していた分析はすべて済んでいないが、ギプス固定解放7日後の骨格筋で中心核のある筋線維が観察された。中心核は崩壊後に再生した筋線維に見られる特徴である。また、ギプス解放直後の筋線維では中心核のある筋線維が見られないことから、中心核筋線維の存在は、ギプス解放後に一時的に筋線維の崩壊が起こったことを意味している。この筋線維にみられる崩壊は、通常の体重支持や飼育ケージ内での活動であっても、ギプス解放直後の脆弱化した萎縮筋には一過性な過負荷となるためと考えられた。 また、もしクレンブテロールが中心核の有無で筋線維に異なる影響を及ぼす場合、筋崩壊の程度を左右する要因も併せて調べておく必要がある。一過性の過負荷の原因として、ギプス解放前の萎縮の程度(筋の脆弱化)が考えられる。萎縮の程度は固定された筋の状態(伸展または弛緩状態か)によって異なることが報告されている。したがって、ギプス固定時の足関節固定角度を変えた場合の萎縮からの回復に関して検討を行うに至った。 平成29年度は、まずは異なる関節角度での固定後の回復状況とそれに伴うクレンブテロールの影響を併せて研究を進めていく計画である。
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Causes of Carryover |
平成28年度に予定していた酵素法による組織化学的分析では、十分なデータを得ることが困難であることが分かったため、分析方法を免疫組織化学的方法に変更した。 免疫組織化学的手法に用いる抗体は高価なため、当初計画していた平成28年度の予算では補いきれなくなったため、前倒し請求をするに至った。前倒し請求をしたことにより、次年度以降使用額が生じたものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の予算から前倒し請求を行うことによって、平成28年度では免疫組織化学的分析を行った。平成29年度は既に平成28年度に予算を支出しているが、平成29年度も免疫組織化学的分析を行う予定をしている。 したがって、平成29年度も平成30年度の予算を前倒しすることによって、研究を進める計画である。なお、平成30年度は国際学会での発表による旅費を計上していたが、それらの分を前倒しする分に充てる。成果の発表は、国内での学会発表や論文投稿により十分行うことができると考えられるため、国際学会での発表を取りやめても問題ないと思われる。
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