2018 Fiscal Year Research-status Report
経時的栄養介入による非アルコール性脂肪性肝疾患患者のサルコペニア改善効果
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16K01795
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Research Institution | Kagawa Prefectural College of Health Sciences |
Principal Investigator |
樋本 尚志 香川県立保健医療大学, 保健医療学部, 教授 (20325343)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 非アルコール性脂肪性肝疾患 / サルコペニア / チーム医療 / 栄養療法 / 運動療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画書に基づいて、本年度も平成29年度以降に行う課題に取り組んだ。本研究の対象症例は順調に集まり、現在まで目標としている症例数の約8割を確保することが出来た。協力していただいた非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) 患者の全例に四肢骨格筋量および握力が測定できた。また、ルーチン検査の残余血清を用いて登録患者の約8割の患者からIGF-1、ビタミンD、分岐鎖アミノ酸や亜鉛といった特殊検査もアッセイすることができた。さらに、登録患者の約7割の患者から管理栄養士による栄養指導の導入が可能であり、四肢骨格筋量と体格指数 (BMI) 、摂取エネルギー量または炭水化物・脂質・蛋白質・ロイシン摂取量との関連について解析した。さらに、糖尿病療養指士の資格を有する看護師から個々の症例に応じた運動療法(レジスタンス運動)を提案した。研究計画書に基づき、NAFLD患者におけるサルコペニアおよびサルコペニア肥満の頻度を明らかにし、さらには四肢骨格筋量の低下に関与する血液生化学的および栄養学的因子について検討することが出来た。 しかしながら、四肢骨格筋肉量の低下した症例を経時的にフォローアップできた症例は数例にとどまったので、当初の予定を変更して、経時的に栄養療法および運動療法を行うことの出来たNAFLD患者全例について四肢骨格筋量と上記の栄養学的パラメーターの変化について解析を行うこととした。その結果、栄養介入することによって四肢骨格筋量にどのような影響を与えたかを科学的に検証することが出来た。 本研究により、四肢骨格筋量に影響を及ぼす生化学的および栄養学的因子は性別によって異なる所見が得られた。また、予想に反して肥満のNAFLD症例にはサルコペニアが少ないことも今回の研究で得られた知見の一つである。このように、興味深い所見が数多く得られたので、本研究を論文化する目途はたった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、これまでのところ、目標症例の約8割まで登録された。しかしながら、もう少し症例数を増やして解析したいので本研究を1年間延長することにした。この期間内に目標とする症例数に達し、論文化して英文雑誌に投稿し、論文が掲載されることを目指したい。 今まで集積されたデータを収集・解析することによって興味深い所見が得られたので、本研究の途中経過を学会で数回にわたって発表してきた。その際、専門家と意見交換を行ったので本研究を論文化する目途はたっている。本研究で予想に反したことは、肥満のNAFLD患者にはサルコペニアが1例もみられなかったことであり、四肢骨格筋量が低下していた症例は、肥満でないのに体脂肪率が増加している患者に多かった。また、四肢骨格筋量の低下した症例は数例にとどまったので、これらの患者を四肢骨格筋量改善群と不変群の2群に分けて解析することが困難であった。従って、四肢骨格筋量の低下した症例にとどまらず、経時的に四肢骨格筋量および栄養介入が行えた症例を対象に、四肢骨格筋量の変化と栄養学的因子との関連について検討することにした。 残念なことに、経時的に栄養療法を行い、四肢骨格筋肉量を測定した症例が15例程度にとどまっている。栄養指導を繰り返し行い、管理栄養士の提言を遵守することによりどの程度栄養状態が改善されたかを患者本人にフィードバックしてこそ栄養指導の効果が発揮できる。このことを患者一人一人に浸透させ、経時的栄養介入に参加していただける患者がさらに獲得できるように努めて参りたい。 また、男性患者においては骨密度を測定できた症例が少ない。骨粗鬆症は女性に多い疾患であるため女性患者からの同意は得られやすいが、NAFLD患者に骨密度を測定する目的について患者に十分説明し、男性患者からも測定に同意が得られるように取り組みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の問題点の一つとして、「サルコペニア肥満」に関する定義そのものが曖昧である点が挙げられる。日本サルコペニア・フレイル学会からその定義が公表されると伺っているが、いまだその公表がない。本研究では、暫定的に肥満の定義であるBMI が25以上であり、サルコペニアの基準を満たすものを「サルコペニア肥満」と定義した。今後は公表された「サルコペニア肥満」の定義に基づいて、NAFLD患者におけるその頻度を再検討したい。 NAFLD患者の半数以上は肥満なので、サルコペニア肥満も相当数みられるものと当初は予想していた。しかしながら、予想に反し、肥満のNAFLD症例でサルコペニアの範疇を満たす症例がこれまでのところみられていない。逆に、非肥満者で体脂肪率の高い、いわゆる“かくれ肥満”のNAFLD患者において四肢骨格筋量が低下している症例が以外に多かった。これらの四肢骨格筋量が低下した症例に対してどのような栄養介入または/および運動介入が効果的かを経時的に検討していくことが非常に重要である。困ったことに、四肢骨格筋量の低下を伴ったNAFLD患者に経時的に栄養指導を行うと、脂肪肝は改善される反面、四肢骨格筋量がさらに低下する症例を経験している。このような患者に対して、包括的に、かつ継続してきめの細かい栄養介入を行わなければならない。 ロイシンリッチのアミノ酸サプリメントを補充することによって四肢骨格筋量が改善した報告がある。栄養指導が導入された時に四肢骨格筋量の低下を指摘され、栄養介入によって脂肪肝は改善されたが、四肢骨格筋量がさらに低下したような症例については、ロイシンリッチアミノ酸サプリメントの補給を併用することも考慮しなければならないと思っている。なお、このサプリメントの補充については、投与する時間帯、投与期間や投与量について検討する必要があり、今後の課題としたい。
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Causes of Carryover |
登録できた症例数が目標としていた症例数に達しなかったため、研究期間を1年間延長した。
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