2017 Fiscal Year Research-status Report
脂質ラジカル連鎖反応への水素分子の関与:水素の抗炎症作用メカニズムの解明に向けて
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16K01839
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
西槇 貴代美 日本医科大学, 先端医学研究所, マネ-ジメントサポートスタッフ (00465345)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水素 / 酸化ストレス / 炎症 / 脂質酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素分子は優れた抗酸化作用を持つだけでなく、抗炎症作用、抗アレルギー作用、細胞死抑制作用、エネルギー代謝促進作用などの多彩な効果を有している。近年水素分子が生体内において様々な遺伝子発現を制御することがわかってきたが、そのメカニズムはまだ明らかとなっていない。化学的な実験系で、水素分子存在下で不飽和脂肪酸であるリノール酸を空気酸化させると、過酸化脂質であるジエン生成が低下した。さらに水素分子は細胞死を誘導する過酸化脂質生成を抑制し、細胞内のCa2+シグナル応答を制御した。このことは水素分子が脂質酸化の際のフリーラジカル連鎖反応に介入することを示唆している。そこで水素分子が生体内において、細胞膜のフリーラジカル連鎖反応に介入し、脂質メディエイターとなる過酸化リン脂質生成を変化させることで炎症に関わるシグナル伝達を抑制するという仮説を立てた。本研究では生体内におけるフリーラジカル連鎖反応と炎症に関わるシグナル伝達経路の活性化に着目し、それらに対する水素分子の影響を確かめ、水素分子の抗炎症作用のメカニズムを解明することを目的とする。実験には生体膜に多く含まれる不飽和脂肪酸の一種のリン脂質(PAPC:1-パルミトイル-2-アラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン) を用いた。PAPCは空気中においてフリーラジカル連鎖反応で酸化されると遺伝子発現制御を行う様々な脂質メディエーターを生じる。そこで、PAPCを水素存在下で空気酸化し、その酸化リン脂質を培養細胞に加える実験系で遺伝子解析を行う。水素分子により活性が抑制される転写因子や、増加が抑制されるサイトカインを明らかにして、水素分子が関与するシグナル経路を同定する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生体膜のリン脂質の一種で、構造内に不飽和脂肪酸をもつPAPCをフリーラジカル連鎖反応により酸化させた。水素存在下、非存在下で酸化させたPAPC(oxPAPC、H2oxPAPC)を培養細胞に作用させた。1.oxPAPCを作用すると細胞内情報伝達を担う細胞内のカルシウムの上昇がみられたが、1.3%以上の水素存在下で酸化させたH2oxOAPCは、カルシウムの細胞内上昇が抑えられた。2.マイクロアレイによる網羅的解析と、RT PCRによる遺伝子発現解析で、カルシウムシグナルにより活性化する転写因子NFATと水素分子の関与が明らかとなった。3.ヒト培養細胞にフリーラジカル発生剤であるAAPHを加え、フリーラジカル連鎖反応を引きおこした。水素が1.3%以上存在するときに、フリーラジカル連鎖反応は抑制された。AAPH存在下では、細胞内のカルシウム濃度が上昇し、水素の存在下で抑制された。同時にNFATの活性も水素によって抑制された。また、NFATにより転写される遺伝子の発現もAAPHによって上昇し、水素のよって下降した。 以上の結果は、空気酸化によりPAPCをフリーラジカル連鎖反応で酸化させた結果と一致した。また、マウスを用いた実験系でザイモサンを腹腔内投与、または経鼻投与し、炎症モデルを作製した。水素分子とNFATの阻害剤であるサイクロスポリンAを投与して、水素分子が生体内の免疫系細胞のNFAT核移行を抑制することを証明しようと試みたが、有意な結果は得られていない。
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Strategy for Future Research Activity |
水素分子のもつ抗炎症作用、抗アレルギー作用、細胞死抑制作用、エネルギー代謝促進作用などの多彩な効果は、免疫系細胞の活性化と深く関与していると考えられる。活性酸素は病原体などの感染を感知した際に免疫応答の一つとして産生されるが、過剰な活性酸素の生産は生体の防御機構のためにも必要である。そこで今年度は、免疫細胞における活性酸素の解析とT細胞の分化過程におけるミトコンドリアのエネルギー代謝をテーマに実験を進める。具体的には我々が開発した生体内の酸化ストレスを可視化できるroGFPマウスの脾臓、リンパ節から免疫細胞を採取し、in vitroにて薬剤で活性化する。さらにサイトカインで免疫細胞を分化誘導し、免疫応答とT細胞の分化過程での酸化還元解析や細胞内のエネルギー代謝解析を行う。免疫応答と免疫細胞の活性化、T細胞の分化誘導過程における水素分子の作用点に迫る。
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Causes of Carryover |
論文投稿料の経費を多めに見積もっていたが、投稿料の支払い請求が来たのが年度末であったため、残金が生じた。残金は次年度経費と合算して、研究に役立てる。
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Research Products
(8 results)