2017 Fiscal Year Research-status Report
受傷後急性期の打撲傷を証拠化する試み~虐待の早期発見を目指す取り組み~
Project/Area Number |
16K01857
|
Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
美作 宗太郎 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50284998)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大谷 真紀 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30292379)
大島 徹 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70464427)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 子ども虐待 / 法医学 / 打撲傷 / 赤外線サーモグラフィーカメラ |
Outline of Annual Research Achievements |
受傷後早期の打撲傷は一般に証拠化が困難である.皮膚変色などの肉眼的変化が乏しいケースでは,患者が「痛みがある」,「熱を持っている」等と訴えても,客観的に証明することは難しい.本研究では,損傷受傷後に生体の炎症反応として生じる局所的な熱感を客観的に捉えて証拠化することを試みた. 被験者が転倒するなどして損傷を負った場合に,赤外線サーモグラフィーカメラ(FLIR T440)を用いて損傷を観察・撮影し,同時に可視光線下でも撮影した.赤外線サーモグラフィーカメラの温度レンジは-20~120℃とし,画像モードはカメラモードに加えてMSXモードでも撮影して損傷検出のしやすさを比較した.熱画像は設定する表示温度幅により色調が決まるため,自動調整モード(画面に表示される範囲で最大温度と最低温度でレベルスパンを自動調整して表示)と手動調整モード(予め皮膚温として予想される温度範囲を固定しその範囲内で色調を表示)の両者で検討した.個体差,身体部位の差,更に室温などの環境条件の影響を除外するために,損傷部だけでなく非損傷部も写し込んで検討した. 受傷後早期の損傷のうち,受傷後1日以内であれば皮膚の温度差として観察できたケースは,打撲傷で13例中8例(62%),打撲擦過傷なども含めると16例中11例(69%)であった.また,色分布の表示方法としては,自動調整モード,手動調整モードは,それぞれ証拠化する目的により利点・欠点があるため,両方のモードでの撮影が推奨された.なお,同検査は予想以上に鋭敏で,日常生活における皮膚温の変化に大きく影響を受けていることが判明した. 今後は受傷後早期の打撲傷の証拠化のみならず,日常生活における様々な皮膚温が変化する状況・病態について検討を深める必要がある.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は適切な撮影条件を探りながらも,実際の症例により多くの知見が得られた.受傷後早期の損傷のうち,受傷後1日以内であれば皮膚の温度差として観察できたケースは,打撲傷で13例中8例(62%),打撲擦過傷なども含めると16例中11例(69%)であった.皮膚の温度差として観察できない打撲傷は,ごく軽症であったり,被験者が「皮膚の奥の方(皮下深層)が痛い」と訴えるものであった. 撮影条件についての検討では,MSXモードは可視画像で対象のエッジを強調した熱画像でコントラストが明瞭になるが,やや滲んだような画像になるため,肉眼的に不明瞭な打撲傷には効果が乏しかった. 色分布の表示方法としては,自動調整モードはスケールの全ての色分布を使用するためカラフルで温度差の検出に優れているが経時変化はわかりにくいのに対し,手動調整モードは温度差の検出には劣るが,経時的な変化を捉えるのに優れていることが判明した.
|
Strategy for Future Research Activity |
赤外線サーモグラフィーカメラは非侵襲の検査で,かつ客観的な評価が可能であることから,受傷後早期の打撲傷の証拠化に役立つと考えられた. 但し,実際の症例で研究していく中で,同検査は予想以上に鋭敏であることが判明した.即ち,消毒薬・湿布などで処置すると皮膚温は大幅に変化する点,入浴などによる皮膚の温度変化が証拠化に大きく影響する点,擦過を伴い血液や組織液が滲出している部分は低温域として表示される点などに注意が必要であった.また,打撲傷・打撲擦過傷などの損傷以外にも,痒疹や虫刺症,予防接種部位も高温域として表示されるため,被験者から慎重に症状や情報を得ながら検査することが求められた. また,現段階までの研究成果を学術発表をした際に,診断に用いる場合の注意点として前述のケースを挙げたところ,臨床現場の医師からover diagnosisを危惧する意見があり,今後の研究の推進に重要なポイントと考えられた. 今後は受傷後早期の打撲傷の証拠化のみならず,日常生活における様々な皮膚温が変化する状況・病態について検討を深める必要がある.
|
Causes of Carryover |
本研究の初年度である平成28年度は症例数が少なく,消耗品に係る費用が少額であったため未使用額が201,389円であった.平成29年度は症例数が増加し消耗品の購入のみならず,英文論文の校正や論文投稿などに係る支出があったため,未使用額は50,285円となった.平成30年度は平成29年度に新たに生じた課題に取り組むために更に症例が増えることが予想されるため,消耗品の購入に利用する予定である.
|