2016 Fiscal Year Research-status Report
幼児の姿勢と運動技能の拙劣さを客観的評価に基づいて改善する保育方法の開発
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16K01883
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Research Institution | Wayo Women's University |
Principal Investigator |
前田 泰弘 和洋女子大学, 人文社会科学系, 教授 (10337206)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
立元 真 宮崎大学, 大学院教育学研究科, 教授 (50279965)
小笠原 明子 白梅学園短期大学, 保育科, 助教 (50734117)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 気になる幼児 / 姿勢と動き / 不器用さ / 発達障害 / 保育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、保育所や幼稚園での保育に苦慮される発達が気になる幼児を中心的な対象として、その多くが示す姿勢保持と運動コントロールの拙劣さを、保育者自身が評価し、その改善・向上のための保育活動計画・実践するための手法を開発することを目的としている。 平成28年度は、まず、保育者が気になると感じる幼児の姿勢保持や運動コントロール、感情コントロール等の拙劣さについて実態調査を行った。A県の私立保育園(3園)に勤務する53名の保育者を対象に、気になると感じる幼児の行動を自由記述で質問紙に回答するよう依頼した。回答結果は合計264件であった。この回答を複数の研究者でKJ法を用いて分類したところ、以下の14種類の拙劣さや未熟さに分けることができた。①外界への気づき、②かかわり方、③感覚の特異性、④気持ちのコントロール、⑤こだわり、⑥言葉のやりとり、⑦集団からの離脱、⑧衝動性、⑨身体コントロール、⑩多動性、⑪発達の遅れ、⑫注意集中、⑬イメージ変化への適応、⑭その他。この分類を、3歳児に関する回答95件、4歳児81件、5歳児88件にそれぞれ当てはめ、行動の発現傾向を分析した。 その結果、保育士は幼児の年齢にかかわらず、身体コントロールやかかわり方の拙劣さを気にする傾向があることが分かった。また、半数以上の気になる行動がセルフコントロールの拙劣さに分類された。セルフコントロールとは気持ちや身体のコントロールの拙劣さ、多動性、衝動性などを含むが、これが安定することにより環境を適切に把握でき、かかわりが円滑になることは理解に難くない。したがって、気になる行動を示す幼児に対しては、このセルフコントロール力の向上を意識した保育を行うことが大切だと考えられた。このことからも、自分自身の身体や感情をコントロールするための動きづくりを行う(姿勢や動きを作る)ことの大切さが再認されたと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の当初計画は、幼児の基礎運動技能の標準的な達成時期を調査することであった。これについては、本年度当初より文献研究や標準化された発達検査等で示される達成時期の整理し、それを指標として保育者を対象とした質問紙調査を行った。しかしながら、その結果は、運動技能の達成時期やその不達を把握することが、必ずしも気になる幼児の様子(行動)への対応(保育)に効果的な寄与を生まないということを示唆していた。その背景として考えられたことは、ひとつは基礎運動技能という評価の指標が気になる幼児の行動との関連性を説明するためには現状で十分整合するものではなかったこと、さらに保育現場では保育者により評価に差が出るものであったことが考えられた。そこで、今年度はまず、保育者が幼児のどのような行動に対して保育上の困難さ(気になる様子)を感ずるかを調査した。その結果は、前記「研究実績の概要」の通りであるが、結論として、気になる様子を示す幼児は、身体や感情のセルフコントロールに拙劣さを示すことが多く、保育の中ではそれらを改善・向上すべく姿勢や動きを作る動きづくりを行うことの大切さが再認されるという結果に至った。 一方で、保育者の保育上の困難さと幼児の身体活動の拙劣さとの関連性については、動きづくりという保育活動を計画・実践するためには検証が必要なことであり、本年度後半ではこれらの関連性を検討する予備的な質問紙調査を、4つの保育所(園)を対象として行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の進捗は、結果として初年度(平成28年度)計画と次年度(平成29年度)計画の一部が入れ替わった形となった。ただし、双方の計画は、直列的ではなくむしろ並列的に行うことが有効であるという示唆も得た。そこで、今後の研究の推進方策としては、当初初年度に行う予定であった基礎運動技能の標準的な達成時期の調査と、次年度に行う予定であった気になる幼児の姿勢の保持や基礎運動技能の拙劣さの状況調査を並行して行うよう計画することとした。 申請時の研究計画書にも記載の通り、本研究は最終的には幼児の姿勢や運動技能の向上に資する保育活動(動きづくり)を、保育者自身が立案し実践できるための方法を開発することを目的としている。しかし、初年度の予備的調査から、幼児を評価しそれに合わせて保育を実践する保育者について、図らずもその立案、実践の力に大きな差があることが示唆された。そのため、今後の研究ではそれらを考慮した方法を提案する必要性について合わせて検討する必要があることが分かった。 これらのことから、研究全体の当初計画を保持しながらも、より保育現場の「声」を取り入れた調査・分析を行っていくことが必要であると考えられた。具体的には、調査紙等の作成段階から保育現場の職員に携わってもらうといったことである。さらに、平成29年3月に告示された新幼稚園教育要領では、第5章において障害のある幼児などへの指導として、その保育のための個別の教育支援計画の作成と活用などの努力義務が示されたことから、本研究の結果とそれとの関連性、整合性が認められる形で整理していく必要性があると考えられた。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、主に本年度予定であった複合機(プリンター)の購入を延期したことと、それに伴いプリンタトナー・インク等の消耗品の購入がなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降、研究の進捗状況にあわせて複合機を導入する予定のため、次年度使用額についてはこれに充当する予定である。
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