2016 Fiscal Year Research-status Report
シソ科植物の成分に基づく新規アミロイドβ凝集阻害物質の開発とその分子機構
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16K01909
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Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
上井 幸司 室蘭工業大学, 工学研究科, 准教授 (80347905)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アミロイドβ / アルツハイマー病 / タンパク凝集 / ロスマリン酸 / 構造活性相関 / シソ科 / ドッキングシミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病 の患者の脳内では, アミロイド β (Aβ)が凝集し老人斑が形成されるが, このAβ凝集体が神経細胞やシナプスの脱落などの神経毒性を示し、 アルツハイマー病の病因となると言われている。従って、Aβ&凝集阻害物質がアルツハイマー病の予防・治療に繋がることが期待されている。ところが、Aβ凝集の詳細な凝集機構は未だに明らかになっていない。一方、我々は以前、シソ科ハーブ系の香辛料が高い凝集阻害活性を示し、主活性成分はロスマリン酸であることを明らかにし、同じシソ科のアオジソは、これまで最も活性の高かったスペアミントの約40倍もの活性を示した。そこで本研究ではアルツハイマー病の予防・治療薬の開発に寄与するために, ロスマリン酸誘導体やアオジソの活性成分をツールとして化学構造と Aβ 凝集阻害機構の関係を解明することを目的としている。 はじめに、ロスマリン酸の種々のの部分構造に着目した種々の誘導体を化学合成し、これらのAβ凝集阻害活性を一般的な評価法であるチオフラビンT(ThT)法および我々の研究グループ独自の方法である微量ハイスループットスクリーニング(MSHTS)法の二法により凝集体量が半分になる阻害物質の濃度(EC50値)を求め、これらの値を比較検討した。その結果、誘導体の化学構造によりAβ凝集阻害活性の程度は異なるうえに、活性の評価法によっても阻害強度が異なる傾向が示された。 次にロスマリン酸誘導体存在下での凝集体形成過程をこのMSHTS法により経時的に観察した。その結果、凝集体形成速度は添加するロスマリン酸誘導体の化学構造により異なりることが明らかとなった。そこで、ロスマリン酸誘導体とAβペプチドの結合位置をAutoDockを用いてドッキングシミュレーションしたところ、試験管内で得られた結果と計算で得られた結果は相関性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、本年度は1) シソ科植物に含まれるAβ凝集阻害物質の化学構造に基づく誘導体の合成と、2)合成した誘導体のMSHTS法およびThT法による活性評価とそれに基づくAβ凝集阻害段階の特定をすることとなっている。 シソ科植物のAβ凝集阻害物質の誘導体合成については、ロスマリン酸とその周辺化合物50種類を化学合成し、計画通りに進行した。一方、アオジソの阻害物質については阻害物質の特定に時間がかかっており、この点については進捗が遅れている。 合成したロスマリン酸誘導体の活性評価は合成した全ての化合物についてMSHTS法およびThT法により活性評価し、それらのEC50値を算出したうえに、凝集体形成過程の経時的観察により化学構造と凝集過程の関係を考察しており、この点についても計画通りに進捗している。 さらに、ロスマリン酸誘導体に関しては平成29年度以降の実施計画にあるAβペプチド上の結合位置をAutoDocを用いたドッキングシミュレーションを既に進めており、この点に関しては計画以上に進展している。 以上の結果は複数の学会で発表され、また現在査読付き原著論文に投稿中である。このことから総合的に判断し、本年度の研究目的は概ね順調に進展していると自己点検した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果により、ロスマリン酸誘導体はその化学構造によりAβ凝集阻害活性が異なり、活性の評価法によっても阻害傾向が異なることが示された。このことは同じロスマリン酸誘導体でもわずかな化学構造の違いにより、複数あるとされるAβ凝集段階の阻害する段階が異なる、すなわち阻害機構が異なることを示唆している。このことはドッキングシミュレーションによって誘導体によってAβペプチド上の結合位置が異なることからも支持されている。そこで、ロスマリン酸誘導体のAβペプチド上の結合位置を実験的に明らかにするために核磁気共鳴(NMR)スペクトルを用いた結合位置の同定を検討する。試験管でのAβ凝集阻害活性試験の条件でのAβやロスマリン酸誘導体の濃度は極めて薄いため、より感度を上げるため同位体で標識したAβペプチドを合成して利用することも検討する。 また、Aβ凝集阻害活性のさらなる検討のために、補助的に阻害剤存在下で生成したAβ凝集体CD スペクトル測定や電子顕微鏡による画像の解析を行う。 以上の実験により得られた試験管内でのAβ凝集阻害活性試験、ドッキングシミュレーション、NMR解析の総合的な解析結果に基づき、Aβ上に効果的に結合すると見込まれる誘導体をデザイン・合成、Aβ凝集阻害活性を評価し、さらなる阻害活性の強化を目指した誘導化を検討する。 得られた凝集阻害物質が実際に生理活性を有するか、まずは培養神経細胞を用いて評価し、有望な物質については、モデルマウスを用いてその効果の検証を行う。 これらと並行して、ロスマリン酸よりも強力なAβ凝集阻害活性を示しているアオジソの阻害物質の同定とその誘導体化を進める。
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Causes of Carryover |
物品費および旅費について、計画と実際の価格の差額が生じたために、わずかの残金が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の消耗品の購入に充てる予定である。
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