2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K01960
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
地本 宗平 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (80324185)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 音色 / 大脳皮質聴覚野 / 高次聴覚野 / 非対称性知覚 / ramp音 / damp音 / 音圧振幅 / スパイク応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの音響環境における言葉や楽音の波形は時間軸上で多くの場合非対称になり、音色等の音知覚に対して影響を与えている。これまでの精神物理学的実験により音の振幅が時間とともに増加する音(ramp音)はそれを時間軸上で反転させた音(damp音)に比べて主観的に大きく長く聞こえることが分かっている。この非対称知覚の神経基盤を明らかにするため、覚醒動物の聴覚野から単一細胞記録を実施し、これら非対称音呈示時の神経スパイク応答を調べた。一次聴覚野(A1)では2種類の異なる応答特性を持つ細胞タイプを発見した。一つは音振幅の急激な増減に一致してその活動頻度を増加させる細胞(エッジ細胞)で、もう一つはゆっくりとした音圧変化時に持続的に発火頻度を増加させるタイプ(スロープ細胞)である。しかしほとんどのA1細胞は音圧の変化、つまり速度に感受性を示す細胞であり、音圧変化の方向には感受性を示さなかった。本年度の研究では昨年度に引き続き、二次聴覚野と後部聴覚野、および前部聴覚野から神経活動を記録し、非対称音に対する応答を調べた。その結果、音圧振幅の増加時のみに応答を増加させるタイプと音圧振幅減少時に一致して応答を増加させる細胞集団が高次聴覚野に多数存在することを明らかにした。また各細胞について、ramp音あるいはdamp音に対する最大応答振幅を比較した結果、これら高次聴覚野細胞の多くが片方の音へ嗜好性を示すことが明らかになった。これらの音圧変化の方向に対する感受性を示す細胞群が非対称知覚の神経基盤の一部を形成する可能性が強く示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度までに記録できた二次聴覚野(A2)と後部聴覚野(PAF)のニューロンに加えて、前部聴覚野(AAF)ニューロンについて、音包絡変化方向の非対称性音に対する応答を記録し、解析を開始した。多くのAAFニューロンは一次聴覚野(A1)ニューロンと同様の純音応答を示すことが既に知られているため、まず定常音圧の純音刺激に対する周波数応答野を同定し、音圧振幅変化を調べるための音刺激の周波数キャリアを求めた。また他の高次聴覚野の応答特性との比較を行うため、バンドノイズ応答も系統的に実施して同定し最適刺激条件を求めた。具体的には純音周波数およびバンドノイズ音の中心周波数を128 Hzから16 kHz、ノイズ音のバンド幅を250 Hzから16 kHz、定常音圧を10 dBから70 dBに系統的に変化させ、刺激中0.5秒間における平均発火頻度から刺激前0.5秒間の自発発火頻度を引いた値を誘発応答とし、最大誘発反応を起こした刺激を最適刺激条件とした。次に、同定した最適刺激条件を基に、刺激音圧を時間経過とともに指数関数的に減少(damp音)または増加(ramp音)させた音を作成し、異なる音に対する応答記録を進めた。その結果、多くのAAFニューロンは、A1で記録された急激な音包絡変化の時間的境界に感受性を示すエッジ細胞とゆっくりとした音圧変化時に持続的に発火頻度を増加させるスロープ細胞であることが明らかになった。また少数のAAFニューロンが音包絡変化方向に選択性を示すことが分かった。以上の結果を日本生理学会、日本神経科学会で発表を行っており、当初の計画を概ね順調に遂行できていると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
高次聴覚野の音包絡変化の役割を明らかにするためには、各領野の音包絡変化方向選択性の分布を明らかにする必要があり、引き続き記録するニューロン数を増やす必要がある。またそれらの細胞のスパイク応答の時間変化が音知覚の非対称性に関与するかを明らかにするため、異なる音包絡変化音に対する時間応答関数を作成し、反応の大きさ、潜時および反応パターンの解析をおこなう予定である。具体的には、任意の1回の刺激音の活動パターンと各刺激音による平均活動パターン間のユークリッド距離を比較する神経識別器を使用した解析をおこない、高次聴覚野の特徴選択性による音圧振幅方向の識別能力を定量化する方法を用いる。刺激音は、damp音とramp音に加えて、音の開始と終了が共に振幅が急激に変化するrectangular音を使用する。各音の最高音圧を30,50,70 dBの3段階に、長さを2.5,5,10,20,40,80,160,320 msの8段階に変化させ、合計72種類の刺激音に対する応答を解析する予定である。
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Causes of Carryover |
既存の設備備品からの更新を予定していたが、大学内実験規定変更により進行中の実験を一時中断する必要があったため、実験機器の購入を次年度以降に繰り越すこととした。 新規の購入品として、アイソレータ、無線式記録システム、解析用コンピュータと解析データ保存用サーバを予定している。また音声出力・解析プログラムについてはライセンスの更新を予定している。
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