2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K01961
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大森 治紀 京都大学, 医学研究科, 名誉教授 (30126015)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 測光電極 / 聴覚神経回路 / 聴覚皮質 / 海馬 / 細胞内Ca応答 / 電場電位 / GCaMP / OGB1 |
Outline of Annual Research Achievements |
測光電極はパッチ電極として神経組織から電気活動を記録すると同時に、レーザー光を通すことで電極先端での蛍光の励起と記録が可能であり、さらに溶液の局所注入ができる、本研究代表者が開発した電極である。本研究ではCaセンサー色素(OGB1)あるいは遺伝子的に強制発現させたCa蛍光蛋白GCaMP6を用いて、中枢神経回路の働きを明らかにする。具体的には下丘及び大脳皮質の聴覚神経回路、さらに海馬で感覚賦活される神経活動がどのような細胞内Ca信号を伴うのかを明らかにする。実験にはニワトリヒナあるいはマウスの聴覚神経系及び海馬体を用いる。本研究により脳の深部における神経電気活動に伴う細胞内情報伝達系の動態および神経活動の機構解明を目指す。これまで研究代表者が用いてきたニワトリ以外の動物の脳活動も対象とすることで、多様な実験系への測光電極法の応用を広げることで、多くの研究者が活用することのできる実験手技として確立し一般に普及することを目指す。特に平成29年度は、マウス海馬を主たる実験対象とした。実験は海馬研究に実績のある金沢医科大学生理学教室で、小野宗範講師、加藤伸郎教授との共同研究として進めた。さらにこれまで実績のあるCa感受性色素OGB1以外に遺伝子発現した蛍光タンパク質GCaMP6を用いた実験を行なった。GCaMP6はウィルス注入後の発現に1週間程度を要するために、成体マウス海馬を対象として覚醒下に歩行行動に伴うCa応答を記録した。海馬では、尻尾リフト刺激が歩行を促し、歩行速度に応じたCa応答を引き起こした。眼球への空気流刺激もCa応答を起こした。以上の現象はしかし、現時点では信号サイズが小さいので、平成30年度以降は測光電極の光感受性をあげる工夫をすることで、速く小さなCa信号を捉えるようにするつもりである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初期の実験ではCaセンサーとして化学的な指示薬OGB1を用いた。OGB1は反応が大きくCaとの反応速度も早く、測光電極を開発する上で役に立った。現在は遺伝子的に神経細胞への発現制御ができる蛍光蛋白を用いることで、神経活動に伴う様々な細胞内情報伝達分子の動態を解析することを究極の目的として測光電極法を改善している。この意味では、マウス海馬のCa動態を感覚刺激によって起こるGCaMP6の光信号として測光電極でモニターできた事は、研究展開として大きな意義がある。海馬での研究は、平成29年度に海馬の神経回路研究に実績のある金沢医科大学生理学教室で行ったものである。当初、海馬にOGB1を注入し1-2時間後に測光電極を刺入し、覚醒して歩行運動のできるマウス海馬からの神経活動として、Ca応答と電場電位を記録した。また、GCaMP6をウィルス発現させたマウスからも同様の神経活動を記録できた。これらは 1)測光電極記録を、これまでの聴覚系以外に応用した点、2)ニワトリからマウスの神経系に動物種を広げた点、2)さらに覚醒下にあり歩行運動のできるマウス神経活動をCa応答と電場電位応答として同時に同一場所で記録できた点、そして4)遺伝子的に発現させたGCaMP6で測光電極記録ができた点など、測光電極法の改善と拡張において極めて意義のある発展ができたと考えている。こうした実験基盤に基づき、平成30年度には生理学的により意義のあるデータを集めることによって、論文として纏める方向性が確立した。したがって、これまでは計画通り、十分な成果が得られたものと評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、主に覚醒して行動中の個体の海馬から測光電極を用いた実験を進める。細胞内情報伝達分子としてはCaイオンを主な対象として、神経電気活動とともに同時刻に同一神経領域で記録する。平成29年度の実験により、海馬の神経細胞は歩行に伴いθ波が電場電位として発生し細胞内Ca応答を生ずることを、捉えることができた。しかし、Ca信号が小さく、歩行速度、あるは条件付け反射などとのCa応答の相関を明らかにすることが困難であった。したがって本年度は測光電極の光感受性を上げることで、信号/雑音比の高い光記録を行いたい。そのためには、いくつかの方策を予備的に試している。それらは①測光電極を被覆し光を遮蔽することで先端部分以外からの光信号の影響を小さくする。②測光電極先端部分からの光の吸収を増やすことを工夫する。例えば光透過性が高くレーザー光照射により蛍光を発生しないレジンを探し電極先端部をコートすることで、電極先端の光感受性部分を大きくする。こうしたことで光感受性を高めることができるかどうか試したい。光信号と電気的な神経活動を同時に同一点で記録解析することは、神経細胞内部の情報伝達機構と、神経細胞機能の表象としての電気活動との関連を直接明らかにすることである。この手法を脳の深部の神経組織に応用することは、脳の神経回路機能の解析に非常に重要な意味を持つ。将来的には脳機能の解明の糸口を開く可能性のある手法である。細胞内Ca信号だけでなく、いくつかの細胞内情報伝達物質の動態解析にも測光電極法は応用できるはずであり、随時対象を広げて実験したい。さらに適当な遺伝子組み換えマウスを用いた研究も計画したい。 マウスの作製までは手が回らないので、適当なマウスを見つけて共同研究として入手したい。実験研究は平成29年度同様、金沢医科大学生理学教室との共同研究として実施したい。
|
Causes of Carryover |
平成29年度は共同研究を行うことで、消耗品の支出が予定に満たなかった。平成30年度は光学測定に関わる消耗品、及び共同研究先である金沢医科大学への研究旅費、さらに論文の英文校閲、投稿、論文掲載料として使用する予定である。
|