2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K01969
|
Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
藤巻 則夫 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳機能解析研究室, マネージャー (80359083)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井原 綾 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報工学研究室, 主任研究員 (30390694)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 高次脳機能計測 / 言語的意味処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、動物名等の二つの単語を順に呈示するプライミング課題を用いて、被験者が後の単語の意味処理を行う際の脳活動を、MEGを使って計測し、単語呈示時刻から0.4秒程度の時刻における成分(N400成分)の脳活動源強度が、二つの単語の意味的距離に依存することを解析する。 この解析において、以前開発した「少数試行脳磁界データの脳活動源解析手法」(以下、本解析手法と略記)を用いる。通常は100試行程度の計測データの加算平均波形から、脳内の数十か所における脳活動源強度の経時的変化を一組得るだけだが、本解析手法によれば、10試行程度ごとに脳活動源強度を得るため、意味的距離依存性をより詳細に得ることができる。なお脳活動源強度は、単語の語長、親密度、表記妥当性などの語彙特性にも依存する。このため予備実験として、さまざまな語彙特性を持つ単語を単独に呈示してMEG計測・解析し、脳活動源の語彙特性依存性を得る。この依存性を考慮して本実験の計測データを解析することにより、正確な意味的距離依存性を得ることを目的とする。 H28年度に、語彙データベースを使って、様々な語彙特性をもつ単語の抽出を行い、被験者二人を使って予備実験を行った。なお人権に配慮し、被験者には実験内容やデータの利用方法等を説明し、同意をいただいた上で実験した。 H29年度は、その予備実験の計測データについて、本解析手法により語彙特性依存性を解析した。その結果、予想する側頭前部などの言語処理部位には顕著な語彙特性依存性は見られなかった。 なお今後予定する実験データの解析において、被験者ごと計測データごとに、60個程度の脳活動源を得るが、それらの脳部位の特定や、依存性についての統計的検定をこれまでのように手作業で行なうことは容易ではないため、それらを自動化する改良も行なった。手法を応用するための重要な開発を行なったと考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の研究計画では、H28年度において、さまざまな語彙特性をもつ単語を抽出し、予備実験により語彙特性依存性を得て、H29年度には、単語対を使ったプライミング課題による本実験を行って意味的距離依存性を解析する予定であった。 実際には、H28年度に単語抽出を完了したが、研究者の所属機関が導入した、新しいMEGを使った実験を行なうため、刺激呈示や計測パラメータの最適化に時間がかかり、2人の被験者のデータを計測するにとどまった。 さらにH29年度になってから、それらの計測データの解析を行ったが、新しいMEGが、Magnetometer型のセンサーの他、古いMEGになかった、空間勾配を計測するGradiometer型のセンサーも含むため、その計測データの解析のために、解析パラメータ(拡張L1ノルム最小化における、評価関数内の重みと、逆行列計算の打ち切り値など)の最適化を行った。またこれまでは60個程度の脳活動源(ダイポール)の位置をMRI構造画像に重ねて、眼でみて脳部位を特定していたが、その位置座標を標準脳座標に変換し、そこから脳部位名を抽出するプログラムを使用して、解析結果から全ての脳活動源について脳部位名を自動抽出できるようにした。さらにこれまでSPSSなどの統計ソフトを使って、手動で脳活動源位置ごとに脳活動源強度の依存性の統計的検定を行っていたが、一般線形モデルによる検定を本解析手法の中に取り込むことにより、全脳活動源について一括して検定を行えるようにした。 以上の解析結果処理の自動化に時間がとられたため、プライミング課題を使ったMEG計測とその解析などの本実験を行うことができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
H29年度に予定していた本実験ができていないため、当初から想定していた代案として、分担者が以前に、動物名の単語を使ったプライミング課題により、古いMEGで計測した10人分のデータを使用する。この古いMEGのセンサー数は148であり、新しいMEGの360と比べて少ないが、十分な感度を持ち、高い精度で計測したデータであり、本研究における本実験の計測データとして利用できる。H30年度は、このデータに本解析手法を適用して意味的距離依存性の解析を行う。 H28・H29年度に単語抽出し、それを使って行なった予備実験は被験者二人分であるが、想定していた顕著な語彙特性依存性が出なかった。この結果から、語彙特性依存性は小さいことが予想される。そのため時間的制約を考慮し、まず本実験データの解析を先行して行い、その後時間の余裕に応じて、予備実験を追加してデータ数(被験者数)を増やし、語彙特性依存性をより明確にするという順序で、研究を進めるようにしたい。
|
Causes of Carryover |
H29年度に本実験を行う予定であったが、予備実験の解析と並行して、解析結果処理の自動化を行なうことに時間がとられ、実験を行なわなかったため、これに関わる被験者謝金や脳計測施設の使用負担金を使用しなかった。H30年度にその予算を繰り越し、それを使って追加の予備実験を行いたい。なお今後の進捗状況によっては、本研究の期間をH31年度まで1年延長し、追加実験等を行う可能性も視野に入れたい。
|