2017 Fiscal Year Research-status Report
「分割統治」に抗する貧困層の新しい戦略:フィリピンの事例
Project/Area Number |
16K01973
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中西 徹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30227839)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フィリピン / 貧困 / 分割統治 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29 年度では,社会ネットワーク分析のためのデータの整備を行った。すなわち,(1)資産・所得などの経済指標,社会的威信などの個々の主体の属性や対象集団にとって重要な事件を析出すると同時に,(2)親族・姻族関係以外の鍵となる複数のネットワーク・データを収集した上で,(3)周辺地域のコミュニティ外に居住する中間層との間の社会関係のデータを,30年以上,定点観測を行っているフィリピンのマニラ首都圏マラボン市の貧困地区において収集した。これらの収集資料は,匿名性を保持してデータ・ベース化し,必要に応じて調査地に還元してきたが,今回は,質問項目が多いため,データの整理に時間がかかっている。 速報値からいえることは,調査地内における格差構造の深化である。NGOの援助の結果,この20年の間に,居住者の教育水準は向上し,またマクロ経済の堅調さもあり,地域全体の生活水準は確実に向上している。しかし,同時に経済格差はあきらかに拡大し,それは社会関係に大きな影響をもたらしている。本研究では,現実社会における主観的格差,客観的格差と,社会ネットワーク分析によって得られたネットワーク構造上の格差の三者の関係を分析し,社会関係の重要性について検討することを目的としているが,インタビュー調査とインターネットにおけるSNSの質的データをもとに,その動態の輪郭が把握できた。 したがって,成果については,理論的枠組みについての中間報告の段階にとどまっているが,フィリピン国立大学において発表の機会を得て,有機農業における事例を含め,都市貧困層地域における地域通貨の可能性についての報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データ収集と整理に時間をとられているものの,分析枠組みの整備には相応の進展はあったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度では,遅れが生じている収集データの整理をデータの信憑性の確認を含めて,早い時期にまず終了したのち,貧困層の戦略に資する社会関係の深化,発展とその役割を,社会ネットワーク分析によって,動態的に把握することが目標である。周辺地域の中間層との間の社会関係を含めた分析を行い,隠された「分割統治」に対抗する貧困層の戦略を抽出したい。その上で,分析結果を,英文中間報告書にまとめ,フィリピン国立大学において関連分野の研究者を集めた学術会議において発表し,最終報告書作成に備える。同時に,調査地の代表者や現地NGO 対象のセミナーも開催し,議論のいっそうの深化を図りたい。なお,この段階で不足データやデータ間の不突合が生じた場合は,それらを補正するための住民とインフォーマントへの遡及的追跡調査を実施し,データの不足を補うとともに,データの信頼性を高める。
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Causes of Carryover |
調査地における政治的状況から,一部の質問票を用いた面接調査の実施ができなかった。このため,この分の調査は,平成30年度に延期した。本年では,この額を合わせて,不足分の調査を実施しつつ,本年度の計画を実施する予定である。
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Research Products
(1 results)