2019 Fiscal Year Annual Research Report
Strategies of the Weak against Divide et Impera in the Philippines
Project/Area Number |
16K01973
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中西 徹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30227839)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フィリピン / 弱者 / 分割統治 / 社会ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は,とりまとめの年度であり,速報値にもとづく議論をまとめ,フィリピンのアテネオ・デ・ダバオ大学,秋田公立美術大学での口頭発表(それぞれ,英語,日本語による)を行い,雑誌『東洋文化』に「現代経済の『錬金術』と有機農業 : フィリピンにおける『食』と『貧困』」を発表した。 概要は,以下の通りである。グローバリゼーションが深化する現代社会において格差の拡大が顕著に生じているという観察が新しい。他方で,35年来の私の調査地であるマニラの一スラムでは,絶対的貧困はある程度まで解決されたとはいえ,食生活が急激に変化し,脆弱な医療制度と所得制約のために,生活習慣病による青壮年期の闘病と早世が,本人と家族にきわめて深刻な長期的負担をもたらしている。この新たに惹起された状況は,調査地外においても広く観察され,それぞれの地域社会の活力を失わせ,再度,絶対的貧困の再来を招きかねない。それは,フィリピンにおける出生時平均余命が,停滞し続けてきたことにも表れている。ところが,それを是正する誘因は,必ずしも内外の支配者層である「強者」には存在しない。むしろ,分割統治戦略を誘うものとなっている。このため,問題解決のためには,非支配者層である「弱者」自らの選択と戦略が必須となるが,本研究では,その一つの可能性を有機農業の普及に求めた。有機農業は,単に人々の食と健康の安全保障に貢献するだけでなく,社会ネットワークの醸成と深化を通じて,「弱者」に固有の戦略を提供するからである。さらに,以上の議論を軸として,情報通信技術と遺伝子技術が急速に進化し,あらゆる社会分野での単一化が進み,大きく地域という概念が揺らいでいる現代において,地域研究の役割と意義についてもあわせて再考した。
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