2016 Fiscal Year Research-status Report
イスラームに基づく商品・サービスの規格化と地域・産業間比較研究:東南アジアの例
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16K01974
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
福島 康博 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (20598908)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地域研究 / 東南アジア / イスラーム |
Outline of Annual Research Achievements |
イスラームに基づく商品・サービスを生産する産業について、島嶼部東南アジア諸国のマレーシア、インドネシア、シンガポール、フィリピンを対象に聞き取り調査や文献調査、統計分析等を用いて、これらの商品・サービスに適応されているイスラームの基準化を明らかにし、また同時に各国のイスラーム的知のあり様、イスラームに基づく産業と市場の勃興、各国それぞれのイスラーム団体の国内での位置づけ、政府・中央銀行等の役割等の解明することを目的とする本研究課題であるが、初年度である平成28年度は、下記の調査・分析を行うとともに、これらに基づいた論文を一本執筆し、また学会発表を一回行った。 まず、マレーシアのイスラーム金融に関する調査・分析を行った。特に2013年に同国で施行されたイスラーム金融の準拠法であるイスラーム金融サービス法(Islamic Financial Services Act)に関して、同法のシャリーアからの影響と、同法の施行によって生じた業界と市場の動向について分析を行った。分析結果は、2016年5月に武蔵大学で開催された日本金融学会春季大会において「マレーシアにおけるイスラーム金融サービス法の施行とイスラーム金融機関への影響」との題目で報告を行った。 上記研究と並行して、28年度はマレーシアのハラール食品産業に関する調査・分析も行った。特に注目したのは、同国で採用されているハラール認証基準であるMS1500:2009で、この基準に織り込まれているシャリーアの内容、他の東南アジア諸国のハラール認証基準との相違についての研究を行った。調査・分析結果は、「イスラームに基づく食の安全・安心: マレーシアのハラール認証制度の事例」との題目の論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度から30年度にかけて3年間計画である本研究課題にとって、28年度は初年度となる。そのため現時点での進捗状況として、28年度に行った研究内容を記す。28年度は、当初の研究計画(平成28年度交付申請書D-2-1)においては、マレーシアとインドネシアのハラール食品産業とイスラーム金融を主たる調査対象とし、研究課題と密接に関係する国際会議や業界イベント(見本市など)が両国以外で開催される際には積極的に参加する、としていた。 上記の計画に基づき、28年度に行った調査内容は以下の通りである。まず、マレーシアを対象とする調査としては、28年9月と29年2月にそれぞれ現地調査を行った。9月の調査では、クアラルンプールのハラール食品企業やレストラン業者に対し、聞き取り調査を行った。続く2月の調査では、ペナン島を訪問しハラール産業に関する見本市と国際会議に出席した。また、ムスリム・フレンドリー・ツーリズムを所管する官公庁であるイスラミック・ツーリズム・センターへの聞き取り調査を行った。 他方、インドネシアでの調査であるが、当初ジャカルタで開催されるハラール食品の見本市に出席する計画であったが、授業期間中に重なってしまったため、調査の実施が困難となった。そこで次善の策として、8月には韓国での調査を、11月には台湾での調査を行った。韓国調査では、ソウルで開催されたハラール食品に関する見本市に出席するとともに、梨泰院地区にあるソウル中央モスクとその周辺地域のハラール・レストランとグロッサリーにおいて聞き取り調査を行った。他方、11月の台湾調査では、在台湾インドネシア人の食に関する調査、および台北市のハラール・レストランとモスクでの聞き取り調査を行った。 以上、28年度で行った調査で得られた知見は、今後の論文執筆や学会発表等を通じて公開することとする。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる平成29年度は、当初の計画(平成28年度交付申請書D-2-1)に基づき、シンガポールとフィリピンを主な調査対象として、調査・研究を進めていくこととする。 シンガポールは、ムスリム人口比が15%ほどで少数派であるものの、ハラール認証制度が整備されていることと、ムスリム観光客を積極的に受け入れている特徴がある。この点を踏まえ、イスラーム行政の中心でありハラール認証団体であるMUIS、旅行業者、食品・レストラン業者を主な調査対象とする。他方フィリピンも、シンガポールと同様ムスリムが少数派の国である。ムスリムの居住には偏りがあり、南部地域に集住する一方、首都圏であるメトロ・マニラには近隣諸国からのムスリム移民などが10 万人ほど暮らしている。同国での調査は、ハラール認証制度とムスリム観光客の受け入れに関する調査を集中的に行うこととする。 本研究課題の主たる調査対象であるマレーシア、インドネシア、シンガポール、フィリピンのうち、調査実施へのリスクが最も高いのがフィリピンである。28年に発足したドゥテルテ政権は、強権的な犯罪摘発、治安維持活動を行う一方、犯罪組織の反発や警察の過剰な取り締まりによる外国人殺害事件などが発生している。また、台風等の自然災害、南部地域での武装対立など潜在的なリスクも存在する。そのため、同国での調査にあたっては、治安等に関する最新情報に留意し、危険性が高まった場合は調査をメトロ・マニラに限定するか、状況次第では同国での調査自体を翌年度に繰り越すこととする。その場合、29年度の研究対象は、代わりにインドネシアにすることとする。 なお、シンガポールとフィリピン以外の国にて、本研究課題の目的に密接に関連する国際会議や業界イベント(見本市など)が開催される場合は、それらにも出席するものとする。
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