2016 Fiscal Year Research-status Report
多国籍企業の石油開発がケニア地元民に与える不利益に関する研究:土地収奪と地域紛争
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16K01978
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
太田 至 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 教授 (60191938)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ケニア / 石油開発 / 土地収奪 / 紛争 / 鉱物資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ケニアのトゥルカナ郡で進行中の石油資源開発が、地元社会にどのような影響を及ぼしているのかを多面的に解明することを目的とする。平成28年度には、関連するケニアの法律を精査する作業、および石油探査による土地収奪と環境破壊を現地調査によって明らかにする作業をおこなった。 2016年9月に成立した「石油法案(Petroleum Bill)」によれば、石油生産から得られる収入のうち、10%は生産地の住民が得られることになった。しかし、ケニヤッタ大統領はこの法案を即時に否定して10%を5%とするように求め、法案はさらに国会で議論されることになった。 ケニアでは2016年8月に「共同体土地法(Community Land Act)」が成立した。2010年に成立したケニアの新憲法と2012年に成立した「土地法(Land Act)」は、土地に対する共同体の慣習的な権利を保証した。そしてこの共同体土地法は、この権利を正式にするために共同体に対して、(1)共同体を定義して登録することを求め、その後に、(2)共同体の認定と、(3)土地の測量と登録を実施する、としている。しかし、トゥルカナのように一つの家族が広大な地域を利用する牧畜社会では、降雨や植物資源の分布に応じて人びとは年によって異なる地域を利用しており、土地に対して錯綜した権利をもつため、ある一定地域と結合する共同体を措定し、そのメンバーを固定することは非常にむずかしい。 トゥルカナ郡における現地調査では、石油探査会社が土地を囲い込んでいる実態をGPSをもちいて調査し、ひとつの探査井戸の周辺は、小さなもので100メートル×200メートル、大きなものでは500メートル四方が囲い込まれていることを解明した。また、その周辺では建設用資材や薪炭材として樹木が伐採され、植生がおおきく破壊されている実態も観察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トゥルカナ郡で石油開発が進行している地域の大部分は共有地であるため、それが「土地法」や「共同体土地法」によって法的にどのように定義され、地元住民の権利がどのように保証されるのかは重要なポイントである。また、石油生産によって発生する収入のうち、どれだけが地元社会に還元されるのかを決める「石油法」もまた、地元民の利益に直結する重要な法案である。本年度の研究では、石油開発をめぐる法的な諸側面に関する理解を深めることができた。 また、現地調査によって、石油探査会社が探査井戸の周辺に建設している基地では、オフィスや作業場、資材倉庫、居住施設などのために土地が囲い込まれていること、そして、その土地の周辺では、基地建設のための資材の伐採や、基地住民が利用する薪の調達によって、植生がおおきく破壊されている実態を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者と海外共同研究者は、それぞれの専門分野を活かした研究を継続し、相互を補完しあう研究成果の創出をめざす。平成29年度には、双方の調査結果をもちよってナイロビで相互に検討し、2年間の研究の総括と中間評価をおこなう。そしてその結果をふまえて最終年度の研究方法を再検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した主たる理由のひとつは、研究代表者が所属先の大学における組織運営の仕事のために、当初に予定していたよりも期間が短い現地調査しか実施できなかったためである。交付申請書の提出時には、平成28年度には旅費の予算として995,000円を計上していたが、実際に使用した金額は、710,291円であった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には、前年度に余剰が生じた額もふくめて旅費にあてることにより、現地調査に時間をかけてとりくむ予定である。
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