2017 Fiscal Year Research-status Report
多国籍企業の石油開発がケニア地元民に与える不利益に関する研究:土地収奪と地域紛争
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16K01978
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
太田 至 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 教授 (60191938)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ケニア / 石油開発 / 土地収奪 / 紛争 / 鉱物資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ケニア共和国の北西部に位置するトゥルカナ郡において、外国企業によって進行中である石油資源開発の事業が、地元社会にどのような影響を及ぼしているのかを、とくに土地収奪と治安の不安定化に焦点をあてながら多面的に解明することである。平成29年度には、石油開発をめぐる政治力学を解明すること、および石油開発事業が地元民の生活に及ぼす経済的影響を明らかにすることに焦点をあてた。 ケニアでは、2010年に新憲法が制定されて以来、地方分権化が進められている。平成29年度には、ケニアの中央政府が、この石油開発を強力に推進しているのに対して、トゥルカナ郡の地方政治において権力をもつ者(郡知事や国会議員、郡議会議員など)は、この開発事業にどのような態度をとっているのかを調査した。その結果、イギリスに本部をおく石油開発会社が野生生物保全を推進する国際NGOとの協力体制のもとに、石油探査をおこなっている土地に「自然保護区」を設定し、その土地に対する地域住民のアクセスを制限しようとしたことに対して、トゥルカナ郡の政治家たちが協力してその計画に反対し、地域住民の反対運動を扇動したため、この計画は阻止されたものの、そのプロセスでは治安が悪化したことが明らかになった。 平成29年度にはまた、地元社会に対する石油開発事業の経済的影響に関する現地調査を実施した。その結果、探査井戸の設置やその事業を実施するためのキャンプの設営は、地元民トゥルカナの主たる生業である牧畜活動に直接的にはあまりおおきな影響を与えていないことが明らかになった。むしろ、開発事業に雇用されている多くの労働者が外部から移住し、開発基地を中心として「町」が出現したために、地元民がそこに集まり、薪や炭、建材、酒、そして家畜を販売するなどの現金稼得の機会が拡大したことが、地元社会に多大な影響を及ぼしていることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は3年計画で実施しており、平成29年度はその2年目にあたる。初年度および第2年度ともに、当初に予定していた研究計画を、ほぼ順調に遂行し、石油開発事業が地元社会におよぼす多面的な影響を解明しつつある。 ケニアでは、2010年に新憲法が制定されて以来、地方分権化が進められてきたが、そのプロセスは全国的にいまだに完成していない。しかし平成29年度の研究では、この地方分権化のプロセスにおいて政治権力を強化したトゥルカナ郡の地方政治家たちが、ケニア中央政府の方針に反する行動をとり、そのことが石油探査事業におおきな影響をもったこと、そしてその過程では治安が悪化したことに関する理解を深めることができた。さらにまた、平成29年度の研究では、石油開発事業にともなって外部から移入した労働者たちによってトゥルカナの地に「町」が形成され、そこで活発な経済生活が営まれることによって、地元民が現金稼得活動をおこなう機会を得ていること、そのことが地元民の生活全体におおきな影響をもっている実態を解明することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者と海外共同研究者は、それぞれの専門分野を活かした研究を実施し、相互に補完しあうことによって総合的な研究成果を創出することを目指している。平成29年度にはナイロビで研究会を開き、双方の研究成果をもちよって検討することをとおして研究の中間評価をおこなうとともに、今後の調査の進め方を再検討した。最終年度である平成30年度には、両者のコミュニケーションをより緊密にしながら相互の研究成果を参照しつつ、それぞれが設定している調査項目を探究して、最終的には両者の成果を有機的に統合することを目指す。
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Causes of Carryover |
(理由) 次年度使用額が発生した主たる理由のひとつは、調査地であるケニア共和国で2017年8月8日に大統領・国会議員・県知事などを選出する総選挙が実施されたことである。この選挙にともなってケニアでは、選挙のキャンペーン、そして開票とその結果をめぐって全国で治安状況が悪化し、最高裁判所が現職大統領の当選結果を無効と判定し、選挙のやり直しを命ずるという前代未聞の結果となった。そのために本研究を実施するための現地調査の期間を縮小せざるを得なくなった。 (使用計画) 現在のケニアでは、選挙後には対立していた大統領支持派と反対派の対立が沈静化しており、警察や軍隊が出動するという事態はまったくなくなっている。そのために平成30年度には、前年度から繰り越した金額もふくめて旅費にあてることにより、海外における現地調査に時間をかけて取り組む予定である。
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