2016 Fiscal Year Research-status Report
眠りの進化論:霊長類における睡眠文化行動の比較研究
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16K01980
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
重田 眞義 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 教授 (80215962)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
座馬 耕一郎 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 研究員 (50450234)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | タンザニア / チンパンジー / 睡眠行動 / 睡眠場所 / 休息場所 / アカコロブス / 温度環境 / サーモグラフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
野生チンパンジーの昼・夜の睡眠・休息とその環境要因を、マハレ山塊国立公園にて、2016年10月~11月に、昼間の休息場所の温度環境をサーモグラフィーで測定した。晴天の日(N = 13)は藪の中などの日陰で休息することが多く、地面の温度は、休息場所から離れた場所で平均33.9℃(標準偏差5.99)に対し、休息場所付近は平均28.3℃(標準偏差2.65、range = 23.8-33.0)とより涼しい環境であった。雨あがりの曇天日では(N = 4)、林冠が開けた場所で休息することが多く、休息場所から離れた地点の気温が平均23.8℃(標準偏差1.10)であったのに対し、休息場所は平均25.4℃(標準偏差2.44)と高めであった。チンパンジーは、周りの温度環境をモニターしながら、25℃~28℃の場所を選択休息していると考えられた。 チンパンジーの休息時間帯についても調査をおこなった。朝の9時、昼の12-15時までの時間帯で、臥位で休息する割合が高かった。昼の12-15時は草地で地面の温度が30度を超える時間帯であり、移動などの運動による体温上昇を防ぐために休息していた可能性が高い。朝9時の地表温度は活動に適した温度域であり、この時間帯の休息は別の理由が考えられた。 夜間の睡眠は日没前後の18:34(N = 15)に開始していた。チンパンジーの夜間の排泄や発声活動を録音し記録した。チンパンジーは樹上で眠るが、他の動物の休息場所でもある。調査期間中、あるチンパンジーが、先着していたアカコロブスに威嚇を受け、睡眠場所を変更し、睡眠開始時刻が10分ほど遅れる例を観察した。これまで採食樹という資源をめぐるアカコロブスの攻撃的行動が観察されてきたが、就寝場所についても資源として争うことが確認され、両種の睡眠にとって、互いに影響を及ぼし合う要因であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで多くの研究は、野生霊長類の生息地の温度環境を、気温を指標にして分析を行ってきた。しかし霊長類は気温を感じるだけでなく、地上を歩く際は地面に触れ、樹上を移動する際は樹皮に触れて生活している。こうした支持基盤の温度環境について現地の困難がともなう環境において初めて評価をおこなった。 人の睡眠は夜間の睡眠を中心に研究される傾向があるが、夜間に1回の睡眠をとるというのは人の一般的な特徴といえない。スペインのシエスタに代表されるように、睡眠は夜間だけでなく昼にもみられることから、睡眠研究は、一日を通した睡眠を分析の対象にすることが必須であると考えられる。この点の重要性は、昨年度の国際霊長類学会で行われた睡眠に関するシンポジウムでも確認され、今後、多くの霊長類種で同様の研究が期待されている分野である。 しかし野生霊長類の夜間と昼間の24時間を連続して調査することは難しく、夜間と昼間のそれぞれの時間帯について、独立に資料を収集し、それを組み合わせることで分析を行ってきた。本研究では、それらを継続して同一の場所で実施するための準備をおこなうことにより、継続調査の目処がついた。 以上の点から、研究はおおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度の調査では、チンパンジーが睡眠する局所的な気温については十分に測定できず、睡眠に使用する支持基盤の温度と気温を包括したため、実際に霊長類が感じる温度環境の全てを計測したわけではない。今後は、夜間睡眠時の温度環境についても調査を補足するため、29年度以降の調査においては、より多くの時間帯と測定地点で定量的な比較可能な資料の収集をおこなう。 チンパンジーをはじめ霊長類の夜間の活動を自動的に記録する方法論・装置が確立できれば、24時間の連続資料を収集し、比較分析することが可能となる。そこで、29年度は、昨年度に収集した野生チンパンジーの夜間睡眠時の発声および排泄音の分析を行い、夜間と昼間の連続調査の実現可能性について検討をおこなう。 動物園などで飼育下にある霊長類は、人工の照明や冷暖房などを利用した制御された環境下で生活しており、その環境は霊長類にとって快適であると考えられる。しかし野外環境や、人間の生活空間でもみられるように、飼育環境においても温度環境には多少とも局所的な差異があることは予想できる。そのような差異と変化に対して飼育下の霊長類は睡眠場所を移動させたり、睡眠時の姿勢を変化させるなど、何らかの行動で対応していると考えられる。29年度はこのような睡眠時の行動の変化する点についての資料収集および分析手法の開発をおこなうことによって、異なる生活環境における睡眠行動に「文化的」差異が生じているかの検討をおこなう。
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[Presentation] 眠りの多様性2016
Author(s)
重田眞義
Organizer
関西経済連合会 評議員会
Place of Presentation
中之島センタービル(大阪府・大阪市)
Year and Date
2016-09-05 – 2016-09-05
Invited
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