2016 Fiscal Year Research-status Report
「新しい女性」とアジアの近代――情動にみる思想・価値観の形成過程の比較研究
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16K02003
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
山口 みどり 大東文化大学, 法学部, 教授 (00384694)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 絵美 東京大学, 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク, 特任准教授 (10633050)
高 媛 駒澤大学, グローバル・メディア・スタディーズ学部, 准教授 (20453566)
李 美淑 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (40767711)
青木 淳子 大東文化大学, 外国語学部, 特任准教授 (50761433)
野中 葉 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 講師 (70648691)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地域間比較研究 / 情動(エモーション)史 / 新しい女性 / 近代 / アジア / 憧れ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、西洋における「新しい女性」現象に触発され、20世紀初頭のアジア諸地域で、「近代的で自立した存在」としての「新しい女性」像が出現し変容を遂げた状況を、日本、中国、韓国、インドネシア、エジプトを比較しつつ歴史的文脈と共に明らかにするものである。初年度にあたる2016年度は、「基礎研究「新しい女性」論の形成と展開」として、各担当地域の状況についての概観を示し、比較の素地をつくり出すことを目標とした。 このために5回の研究会を通し、各担当地域における政治的・社会的状況、教育・メディアの状況と変化、思想や価値の具体的な変化のさまを、まずは年表の作成を通じて比較していった。加えて、各地域における「新しい女性」に該当する言葉の初出についても調査し、概念の伝播の様子などを分析した。なお、研究会には連携研究者の宇野陽子も参加し、トルコについての事例も比較検討した。 また、東京大学ASNETにおいて連続講義「アジアの近代と女性~地域文化研究特別講義I~」を行い、イギリスおよびアジア諸国において、「新しい女性」像を、誰が、なぜ、どのように描いてきたのかを概観し、問題提起と情報発信を行った。そのなかでは、後藤絵美がオリエンテーションとまとめ、各講義用文献の講読を担当し、山口みどりが「「文明化の使者」?――イギリス女性とアジア」、青木淳子が「雑誌と新しい女性像―『女人芸術』」、高媛「帝国と観光――戦前日本人女性の満洲旅行」、野中葉が「カルティニとカルティニ書簡集 -インドネシアの近代と女性」のテーマでそれぞれ講義を行った。 また本研究に関する分担研究者各自の研究成果としては、国内論文掲載2件、国際学会報告1件、国内学会報告1件、招待講演2件、共著(復刻書解説論文)1件を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基礎研究段階であった2016年度には、各担当地域の「「新しい女性」論の形成と展開」についての概観を示し、比較研究の下地をつくり出した。5回の研究会を通して各地域で女性の教育や就業の機会、メディア・出版への女性の関与、女性運動、宗教、国際連携、戦争・植民地等について丹念に検討し、年表を作成した。年表はほぼ完成しており、字句の統一の後、ウェッブ上で公開する予定である。 また、上述の東京大学での連続講義では、各担当地域において「新しい女性」論を、誰が、なぜ、どのように描いてきたのかを念頭にリレー講義を行い、大学生・大学院生および一般の聴講者からもフィードバックを得ることができた。 史料収集や調査については、山口はイギリスの福音伝道協会等で宣教師の選抜についての史料収集を行うとともに、2017年度初めに招聘予定のパメラ・コックス教授(エセックス大学)との打ち合わせを行った。後藤は国内で、19世紀末の日本とエジプトの知識人の「憧れ」についての文献調査を行った。高は当初、清末・民国期における中国人女性の旅行体験に関する資料収集を行ったが、一次資料の入手は予想以上に難航した。このため、東大で行った講義テーマ「日本女性の中国渡航」を発展させ、日本側の資料も多用して与謝野晶子や林芙美子などを例に、日本人女性の満洲旅行を研究する予定である。野中はインドネシアで1909~11『Putri Hindia(東インドの女性)』、1915~17『Putri Mardika(独立した女性)』のマイクロフィルム版ソフトコピーを画像データとして入手。記事リスト作成、中身を確認中である。李は韓国で19世紀末から20世紀初頭において唱えられた女性教育の必要性について調査した。青木は2016年にフランスで史料収集をする計画であったが、雑誌『女人芸術』の研究を先に行う必要が生じ、渡仏は次年度に延期した。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目にあたる2017年度は、課題を「テーマ研究「新しい女性」像の広がり」とし、2016年度に築いた土台の上に各自がテーマ研究を行う。また2017年度には3名の海外研究協力者を招聘する予定である。具体的には4月にイギリスのエセックス大学からパメラ・コックス教授、5月に香港大学から中野嘉子准教授、そして10月にイギリスのケンブリッジ大学からルーシー・デラップ氏を招聘してそれぞれ東京大学にて国際セミナーを開催する。「新しい女性」に関係した研究業績を持つこれらの研究協力者と、西洋とアジアでの新しい女性像の広がりについて討論を行い、「新しい女性」像が各地でどのように広がっていったのか検討を深める。 2016年度から作成してきた比較年表については、完成させ、ウェッブサイト上で公開する。 また2016年度から始めた東京大学ASNETにおける連続講義においては、プロジェクトの柱である「情動」や「憧れ」により引き付けるため、「Mission, Fashion, Passion」を共通テーマとした。これを軸とし、山口「私たちの使命―イングランド国教会牧師の娘たち」、後藤「近代化というミッション―英占領下エジプト知識人たちの苦悩」、青木「プロレタリア文学に描かれた新しい女性像―ファッションを視覚として」、野中「プラムディヤ文学に見る20世紀初頭の蘭領東インドの女性像」、李「近代初期の朝鮮女性の主体形成と3・1運動」をテーマに講義を行う。研究協力者の宇野も「トルコ革命と女性たち――運動と国策のはざまで」というテーマで講義を行う予定である。この一連の講義を基にして論文を執筆し、パメラ・コックス氏、中野嘉子氏、ルーシー・デラップ氏の原稿を加え、講義録として出版することを検討している。
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Causes of Carryover |
山口は2016年3月にイギリスでの史料収集を行ったが、会計処理としては旅費等は2017年度分にまわっている。また、ホームページの開設が遅れたため、2016年度は関連する謝金を使用しなかった。青木は日本国内の雑誌の研究を先に行う必要が生じたため2016年度はフランスでの史料収集を行わなかった。また物品の購入等は他の研究費で賄った。本助成金の余剰分は次年度分の助成金と合わせて2017年度に延期したフランスへの旅費に充てる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度にホームページを開設し、共同で作成した年表等を公表する。青木は2017年度にフランスでの史料収集を行う予定。
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Research Products
(7 results)