2017 Fiscal Year Research-status Report
近代タイ仏教社会における日本仏教者の知的営為:タイ地域研究の新展開と拡大に向けて
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16K02012
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
村嶋 英治 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (70239515)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本タイ関係史 / アジア仏教交流史 / タイ地域研究 / シャム仏像 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本のタイ地域研究は、アメリカから戦後に輸入された学問であり、戦前の日本人のタイにおける知的営為や知的蓄積を参照することなく成立した。しかも、戦前との断絶状態は戦後70年を経た今日まで続いている。本研究では、戦前の渡タイ日本人知識層中、最多数派であった仏教者の渡タイ、換言すれば、近代における南北両仏教の接触が引き起こした諸現象に着目する。第2年度は、初年度に続き、日本人最初の上座部仏教出家者とも言われたこともある岩本千綱に関して、その実際の行動を極力詳細に明らかにすることに努めた。同時に、明治期の訪タイ日本人には、シャムの仏像を日本に請来した者も少なくなく、これらのシャム仏の保存状況についても調査を開始した。第2年度における研究成果は次の通りである。 村嶋英治「1890年代に於ける岩本千綱の冒険的タイ事業:渡タイ(シャム)前の経歴と移民事業を中心に(中)」、『アジア太平洋討究』第29号、2017年10月、141―221頁 村嶋英治「1890年代に於ける岩本千綱の冒険的タイ事業:渡タイ(シャム)前の経歴と移民事業を中心に(下の1)」、『アジア太平洋討究』第33号、2018年3月、153―204頁 Eiji Murashima, “Japanese-Thai Materials and Scholarship Concerning the Second World War”in Essays on Vietnam and Thailand during the Second World War,Waseda University Institute of Asia-Pacific Studies, March 2018,pp.12-24. 村嶋英治「バンコクの日本人(80)~(91)」、『クルンテープ』(泰国日本人会月刊誌)2017年4月~2018年3月
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、3年計画であり、1880年代から1940年代に至る約70年間を研究対象期間として、次の調査を実施する。第1に、上記期間における全ての渡タイ日本人仏教者のプロファイルを極力収集する。そのために、外務省外交史料館所蔵の旅券下付表、および日タイ双方の関係日刊新聞を系統的に調査する。また、必要に応じインタビュー調査を実施する。 第2に、渡タイ者の仏教関係新聞雑誌等に対する投稿記事、著作物、あるいは未刊行の日記や紀行文等を収集する。 第3に、日本仏教者の渡タイなどを契機としてタイ仏教界に生じた日本仏教への関心、タイ仏教との比較論に関する記述を、様々なタイ語刊行物から収集する。 第4に、日本の外交史料館やタイ、イギリスの国立公文書館などで、日本の渡タイ仏教者の活動に関する報告等を収集する。 第5に、日本におけるシャム仏像の所在を、できるだけ広範に把握し、その由来を調査する。第2年度に於いては、主に第1,第2、第4、第5の調査を実施した。第1、第2に関しては、1906年~1912年に在タイした渓道元師(のちに京都の黄檗宗萬福寺管長)の在タイ時の資料、1900年に岩本千綱と共に仏舎利奉迎準備のために訪タイした大三輪延弥師(鎌倉浄光明寺)に関する資料などの調査を実施した。第4に関しては、8月にロンドンの国立公文書館で資料収集を実施した。第5の調査としては、農商務省技師横田兵之助が長野善光寺に寄進したシャム仏像、在タイ商人池崎新吉が長崎市高林寺に寄贈したシャム仏像などを調査した。
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Strategy for Future Research Activity |
第3年度も、上記5種類の調査を継続実施する。 第3年度に関しては、タイ国および可能ならばスリランカなどでの調査を実施する予定である。スリランカはタイと同様主要な上座部仏教国であり、多くの訪タイ日本人僧侶は、スリランカを訪問しているからである。同時に、既に収集した資料を整理し、報告書作成に着手する。
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