2018 Fiscal Year Research-status Report
中東地域の伝統的な建築における半戸外空間と中庭の機能に関する研究
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16K02018
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Research Institution | Aichi Sangyo University |
Principal Investigator |
新井 勇治 愛知産業大学, 造形学部, 教授(移行) (20410855)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中東 / 中庭 / 住宅 / 半戸外空間 / カイロ / シリア / モロッコ / イーワーン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中東地域の今もなお生活が営まれている伝統的住居において、中庭に面して設けられる「半戸外空間」に注目し、厳しい気候環境の中で少しでも快適に暮らすため重要な環境装置として使われ続けている「半戸外空間」のあり方や形態、使われ方、そして「中庭」との関係などについて、住まいでの環境機能の継承や変容の在り方を解明していくことを目的としている。 1年目では、エジプト・カイロで行った、伝統的な中庭住宅の半戸外空間や中庭の環境調査内容の分析を進めた。特に、半戸外空間の「マクァド」と「タクタブーシュ」について、中庭との位置関係や、使われ方の違いなどを考察した。 2年目では、カイロの伝統的な住宅での中庭の分析を進めながら、オマーンやサウジ・アラビアなどの湾岸諸国での伝統的な住宅に関する資料調査を基に、伝統的な中庭住宅における半戸外空間の形態、使われ方、環境装置としての仕組みなどについて分析を進めた。 さらに3年目では、東地中海のシリアや東トルコの地域での伝統的住居のデータや情報を集めながら、研究テーマである、伝統的な中庭住宅における半戸外空間の使われ方や、中庭の環境装置としての役割や機能などについて、考察を進めている。シリアの伝統的な住宅では、「イーワーン」と呼ばれる半戸外空間が中庭に面し、夏の暑い時期での重要な環境装置となり、イーワーンの装飾や形態が、住宅の格式にも密接に関係している。イーワーンはたいてい北面しており、日差しが差し込まず、日陰空間となっている。イーワーンの前には噴水や水盤が置かれ、涼を取るための機能となり、住宅での野外のリビング的な役割を果たしている。中庭とイーワーンとの配置関係などを分析していくことが重要な課題となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年目で行ったエジプトのカイロでの調査成果の分析をすすめ、研究テーマである半戸外空間の「マクァド」と「タクタブーシュ」について、調査した10件ほどの伝統的な住宅での半戸外空間の形態、使われ方、住宅での設けられ方、デザイン性、居住のための環境装置として役割などの考察を進めた。 2年目以降ではオマーンやサウジ・アラビアなどの湾岸諸国での伝統的な住宅について図書や論文での情報分析を進めた。また3年目ではさらに東地中海のシリアやトルコ東南部の伝統的な住宅を中心に文献や報告書などの情報を調べ、自己研究の遂行を図った。3年目では、中東地域でマグリブと呼ばれているモロッコやチュニジアでの現地調査も視野に入れていたが、モロッコやチュニジアでの国内情勢が不安定であるため、外国人襲撃などの情報もあり、現地調査は見合わせて、文献や報告書での情報収集にとどめた。そのため、当初の研究計画よりはやや遅れている状況ではあるが、可能な範囲で集めた情報での分析は進めている。使用している主な研究書籍を挙げておく。 ・『ダマスクスの城壁外の生活』(IFPO出版、ダマスクス)アラビア語文献で、ダマスクス旧市街が拡張された12世紀以降に市街に広がった地域での人々の生活の様子が記述されている。 ・『The old souks of Damascus & their hisorical monument』(Qatyna shahabi著、ダマスクス、1990) アラビア語文献で、ダマスクス旧市街の市場の形態や、市場に関連する歴史的な建築について、記載されている。特に、歴史的な建築の中で、中庭を中心として建築されている、隊商宿、病院、イスラーム神学校などでの建築形態は、ダマスクスの伝統的な住宅形態と関連するものがあり、本研究でのテーマに繋がる資料であった。
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Strategy for Future Research Activity |
4年目の研究推進の方策として、1年目で行ったエジプトのカイロで行った伝統的な中庭住宅の半戸外空間について調査データの分析を引き続き進めていく。またカイロ以外での伝統的な中庭住宅の半戸外空間について、これまで自身で行ってきた住宅調査資料や、各地の中東研究を行っている大学や研究機関での伝統的な住宅や考古的な発掘による住宅遺構の資料などを活用し、半戸外空間を中心に、その形態、使われ方、建築での設けられ方、デザイン性、居住のための環境装置としての役割などについて、データ分析を行っていく。国内の研究機関は、国士舘大学イラク文化研究所、東洋文庫、東北大学国際文化研究科などであり、海外ではカイロの日本学術振興会カイロ研究連絡センター、パリのアラブ世界研究所などで収集されている中東における建築や考古学に関する研究資料や報告書などは、本研究の重要な資料となり、情報収集は欠かせない。 中東での現地調査は、本年度も計画しているが、ヨーロッパや中東の各地でイスラーム教徒によるテロが激しさを増し、それに対抗する欧米との軋轢が高まっているため、状況を見ながらの判断となる。特に、中東地域の中でも、西地中海のマグリブと呼ばれている、モロッコやチュニジアでの伝統的な中庭住宅の情報収集は重要となる。 国内での研究推進は、研究連携している宍戸克実准教授や東北大学国際文化研究科の大河原知樹准教授との調査データの分析作業を中心に行いながら、各地の研究機関での研究関連資料の収集や、中東研究者との連携を行っていく。
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Causes of Carryover |
中東地域でマグリブと呼ばれているモロッコやチュニジアでの現地調査を行う計画であったが、モロッコやチュニジアでの国内情勢が不安定であるため、外国人襲撃や誘拐などの情報もあったため現地調査は見合わせたために、使用計画額との差が生じた。次年度においては、調査予定であった中東での現地調査を行う計画であるが、渡航安全情報を入手しながら、調査計画を進めていく予定である。
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