2018 Fiscal Year Research-status Report
ポスト家畜化時代の鵜飼文化とリバランス論-新たな人・動物関係論の構築と展開
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16K02027
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
卯田 宗平 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 准教授 (40605838)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 鵜飼 / 人工繁殖 / カワウ / ウミウ / 民俗学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、京都府宇治市の宇治川の鵜飼を対象とし、2014年から2017年までの4年間の繁殖作業を時系列的にまとめ、鵜匠たちがいかにウミウの繁殖技術を構築したのか、飼育環境下のウミウの繁殖生態はどのように変化したのかを明らかにした。既存の鵜飼研究において、ウミウの繁殖技術に関わるものはない。それは、日本の鵜飼においてウミウが産卵し、孵化したという事例がなかったからである。本研究の結果、宇治川の鵜匠たちは、 (1)繁殖作業前に巣材と巣箱を鵜小屋に配置することでウミウに巣造りを促し、そこで確実に産卵させる、(2)巣内の卵をすぐに取りだすことで親鳥にさらに産卵を促し、より多くの卵を確保する、(3)巣内におく偽卵の数を加減したり、巣材を取り除いたりすることでウミウの産卵行動を調整する、(4)孵卵器内部の温度設定や卵の冷却作業によって孵化率や育雛期の生存率を高める、(5)雛に対する給餌や温度管理の方法を確立させることで、晩成性の特徴をもつ雛を確実に成長させる、という技術を構築したことを明らかにした。くわえて、本年度は、中国雲南省大理の鵜飼も対象とし、漁師によるカワウの繁殖技術を記録したうえで、鵜飼が禁止された状況においても人工繁殖を続ける要因を明らかにした。 これらの一連の研究成果は、卯田宗平・澤木万理子・松坂善勝・江﨑洋子(2018)「鵜飼のウミウの繁殖生態と鵜匠による技術の安定化―宇治川の鵜飼における4年間の記録から」『生き物文化誌学会ビオストーリー』29:96-105、卯田宗平(2019)「カワウの人工繁殖をめぐる漁師の技法と生殖介入の動機―中国雲南省ジ海における鵜飼い漁師たちの繁殖技術の事例から」『国立民族学博物館研究報告』43(4):555-668.にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が概ね順調に進んでいる理由は、昨年度に引き続き、京都府宇治市の宇治川の鵜飼や岐阜市の長良川鵜飼の鵜匠たちをはじめ、宇治市役所や宇治市観光協会の職員との交渉が順調にすすみ、鵜飼研究に関わる問題意識と調査の必要性をインフォーマントと共有したことで効率的なフィールドワークが実施できたことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究では、(1)中国雲南省大理の鵜飼を対象に、漁師たちによるカワウの繁殖技術に関する調査を実施し、その結果を日本の鵜飼の事例と対比させることで、双方の技術の特異性と共通性を導きだす。(2)北マケドニア共和国ドイラン湖を対象に、そこで行われていた鵜飼を聞き取り調査によって復元したのち、日本や中国の鵜飼と比較する作業を通してドイラン湖の鵜飼技術の共通性と相違性を明らかにする。上記の研究目的を達成するために、以下の二つの計画を立てている。第一は、昨年度に引き続き、中国雲南省で行われている鵜飼を対象に、カワウの繁殖技術と湖の観光産業とのかかわりをフィールド調査により明らかにする。第二は、北マケドニア共和国ドイラン湖の鵜飼を対象に、かつて漁を行っていた古老への聞き取り調査を通して鵜飼を復元し、北マケドニアでかつて鵜飼が成り立った要因を考察する。
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Causes of Carryover |
購入した航空券が当初想定していた額より安価だったため残金が生じた。これは来年度の調査費として使用する予定である。
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Research Products
(11 results)