2018 Fiscal Year Research-status Report
カザフスタンにおける伝統医療とイスラームの人類学的研究
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16K02028
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
藤本 透子 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 准教授 (10582653)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 伝統医療 / イスラーム / シャマニズム / 中央アジア / カザフスタン / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中央アジア(特にカザフスタン)における伝統医療とイスラームの展開を人類学調査に基づいて分析し、宗教・社会・身体の関係を考察することを目的としている。3年目にあたる2018年度は、健康上の理由から国外調査を行うことができなかったが、2年目までに収集した現地調査データの分析に重点をおき、口頭発表と原稿執筆を行った。 カザフの伝統医療は、牧畜を基盤とする生活に根差し、シャマニズムと深い関連をもち、イスラームの影響を受けながら形成されており、ロシアから導入された医学的知識をも取り込みながら展開してきた。現地調査データからは、1)日常的治療実践としての油脂や薬草などの利用状況、2)治療者となる過程、3)病因と診断・治療方法の多様性、4)邪視の認識とその治療の特徴、5)特定の乳幼児の病気に関する認識とその治療の特徴、6)ロシア語の病名との対応関係の認識などが、具体的に明らかとなった。 これまでの研究成果の一部は、「社会再編のなかのイスラーム―地域における生き方の模索」として刊行することができた。このほか、3本の論文を執筆した。ひとつは「カザフスタンにおける伝統医療と治療者(エムシ)の活動」で、現在、コメントを受けて改稿中である。2つ目の論文は、聖者廟参詣と伝統医療のかかわりについて分析したもので、論集の一部として科研(研究成果公開促進費)に応募した。3つ目の論文は「中央アジア草原地帯におけるコミュニティの再編と維持」で、出版助成に申請予定である。また、日本との比較も視野に入れた口頭発表も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2018年4月~5月にかけて健康上の理由で約2か月にわたり研究に従事できず、その後も体調不良が続いたため国外調査や国際学会発表を行うことができなかった。データ整理と原稿執筆、国内での口頭発表を中心に行ったが、当初の計画よりは遅れが出た。体調は徐々に回復しており、次年度以降に遅れを取り戻す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
中央アジアの伝統医療の社会的布置を、宗教的側面と医学的側面の双方に着目して明らかにする。第1に、関連するロシア語、カザフ語、英語文献の調査を幅広く行う。中央アジアの伝統医療は、現在ではイスラーム実践の一部とみなされる場合も多いが、歴史的にはシャマニズムとの関わりが深い。このため、これまでの研究期間に十分に精査できていない、中央アジアのシャマニズムに関する文献調査に注力する。また、伝統医療の社会的布置を明らかにするため、医療・保健制度に関する文献収集を行う。 第2に、カザフスタンで現地調査を行い、これまでに不足している項目について、参与観察と聞き取りによるデータを収集する。従来の研究では治療者に調査が集中しがちであったが、伝統医療は治療者のみならず一般の人々がもつ知識によって支えられている。このため、治療者のみならず、患者とその家族、地域住民から聞き取りを進めることを重視する。特に、日常生活における身体の健康に関する意識と実践、食に関する知識と実践、体調不良への対処方法、世界観と身体観の関わり、伝統医療の社会的布置などについて調査する。これらの文献調査と現地調査の結果を照らし合わせて分析を進める。 第3に、カザフの伝統医療の事例を、中央アジアおよび周辺地域における研究と比較検討しながら位置づけ、現代における宗教・社会・身体の関係について考察を深めるために国際研究集会を開催する。最終年度には、これまでの研究成果をまとめて学術雑誌の特集として投稿、あるいは論集としての出版申請を行うことを予定している。
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Causes of Carryover |
健康上の理由により国外渡航することができなくなったため、次年度使用が生じた。今後に予定している現地でのフィールドワークと文献収集、及び国際研究集会の費用として使用する予定である。
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