2019 Fiscal Year Research-status Report
カザフスタンにおける伝統医療とイスラームの人類学的研究
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16K02028
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
藤本 透子 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 准教授 (10582653)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イスラーム / シャマニズム / 伝統医療 / 中央アジア / カザフスタン / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年7月から8月にかけてカザフスタンに渡航し、伝統医療とイスラームに関するフィールドデータを追加収集した。パヴロダル州バヤナウル地区では、特に20世紀における聖者廟の成立過程と変遷、病気治療などの目的での参詣に関する資料を収集することができた。また、オスケメン市とパヴロダル市で開催された国際会議で口頭発表を行い、カザフスタン、ロシア、ベルギーなどから集まった歴史学、人類学、民族学を専門とする研究者の意見を聞いて議論した。 その上で、最終年度の成果発表に向けてカザフスタンの事例をより広い文脈で位置づけるため、中央アジアのムスリムの伝統医療に関する文献に加えて、関連性の深いシベリアのシャマニズムに関する文献を収集して読解することに力を入れた。その結果、現代中央アジアのムスリムの治療者の活動は、現代シベリアにおけるシャマンの活動と重なり合う部分が少なからずあること、ソ連時代末に広がった「生体エネルギー(生物エネルギー)」という観念に基づいて、旧ソ連各地域の伝統医療が新たに解釈されるようになっていることが明らかとなった。 これまでの研究成果の一部は、「カザフスタンにおける伝統医療とエムシ(治療者)の活動」として書籍掲載論文にまとめ、出版が確定した。また、伝統医療が行われているコミュニティ自体の動態を論文「中央アジア草原地帯におけるコミュニティの再編と維持―カザフのアウルに着目して」にまとめた。なお、最終年度の国際ワークショップ「中央ユーラシア草原地帯における社会・宗教動態:人類学と歴史学からのアプローチ」に向けて、国内外との打ち合わせも行いながら準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の拡大により、研究を推進していく上で支障が出ている。まず、最終年度の国際ワークショップに向けての基盤となる、国内での対面での詳細な相談が困難になっている。さらに、国外からの参加予定者とメールや電話などを通して打ち合わせを行っているが、各国における感染拡大の状況や健康状態によってスムーズに連絡をとって相談することができない状況がしばしば生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2020年度は、研究成果をまとめ、国際的な発信にも努める。8月には、カザフスタンのR.B.スレイメノフ東洋学研究所が主催するInternational Conference on History and Culture of the Great Steppeに参加し、伝統医療にも関わる聖者廟参詣について、The Transformation of Saint Worship: Cultural Anthropological Study on the Grave of M-J.Kopeev in Northeastern Kazakhstanというタイトルで発表する。 次に、9月に国際ワークショップSocial and Religious Dynamics of the Central Eurasian Steppe: Anthropological and Historical Approachesを、国立民族学博物館でオンライン開催する。このワークショップでは、科研代表者がこれまで行ってきた調査をもとに、カザフスタンにおける伝統医療と治療者の活動について発表する。さらに、カザフスタン、ベルギー、中国の研究者と共に、中央ユーラシアの草原地帯における社会・宗教動態を、イスラームとシャマニズムに着目して、歴史学と人類学の視点から議論する。ただし、国外と時差が大きいために、オンラインでの国際ワークショップは約2時間に限られる。このため、新型コロナウイルス感染症の状況をふまえて、可能である場合は2月に国外から研究者を招聘し、継続して議論する。 これらの国際会議の結果をまとめて、3月に中央ユーラシアの社会・宗教動態に関する特集を学術雑誌に英語で投稿し、科研の成果を国際的に発信していく予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度に関してはほぼ予定通り調査研究を行うことができたが、その前年の2018年度に健康上の理由で国外渡航できなかったため、2020年度に繰越すことになった。繰越分は、2018年度から計画しているとおり、2020年度の国際ワークショップのための英文校閲費や旅費として使用する。
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