2020 Fiscal Year Research-status Report
カザフスタンにおける伝統医療とイスラームの人類学的研究
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16K02028
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
藤本 透子 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 准教授 (10582653)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 伝統医療 / 治療者 / イスラーム / シャマニズム / 中央アジア / カザフスタン / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カザフスタンにおける伝統医療とイスラームの展開を人類学調査に基づいて分析し、宗教・社会・身体の関係を考察することを目的としている。2020年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大により現地調査を行うことができなかったが、2019年度までに収集したデータを整理して以下の成果発表を行った。 8月には、カザフスタンの東洋学研究所が主催する国際会議にオンライン参加し、病気治療を目的の一つとする聖者廟参詣について発表した。9月には、国際ワークショップSocial and Religious Dynamics of the Central Eurasian Steppe: Anthropological and Historical Approachesを、国立民族学博物館で開催した。このワークショップでは、カザフスタンの東洋学研究所のM. Abusseitova教授が、中央ユーラシア草原地帯における宗教動態を歴史的に概観し、遊牧民と近隣諸民族の交渉のなかで多様な宗教が信仰され、イスラーム化以降もシャマニズムや死者崇敬などの要素がみられることなどを指摘した。次に、ベルギーのルーヴァン・カトリック大学のA-M. Vuillemenot教授が、中央アジアにおけるカザフのシャマニズムについて、インド北部のチベット系住民であるラダッキのシャマニズムとも比較しながら研究発表した。最後に、科研代表者がこれまで行ってきた調査をもとに、カザフスタンにおける伝統医療と治療者の活動について、特に子どもの病いに焦点を絞って発表した。発表後、京都大学の山田孝子名誉教授と国立民族学博物館の池谷和信教授からコメントを受けて議論し、伝統医療を中心としながらより広く社会・宗教動態を解明していくための示唆が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
病気治療を目的の一つとする聖者廟参詣について日本語と英語でそれぞれ書籍掲載論文にまとめたほか、カザフスタンで新型コロナウイルス感染症が拡大する状況下での生活についても日本語の書籍掲載論文のなかでとりあげて検討した。また、予定していた国際ワークショップを、対面とオンラインを併用して実施することができた(人間文化研究機構北東アジア地域研究プロジェクトと共催)。このワークショップには、国外から発表者2名がオンライン参加し、国内からは発表者とコメンテーターを含む25名がオンラインおよび対面で参加して、人類学と歴史学の両面から中央ユーラシア草原地帯における社会・宗教動態に関する議論を深めることができた。今後、ワークショップの内容を論文として投稿する必要があるが、本年度に関しては昨年度までの遅れを取り戻しておおむね順調に進展したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に開催した国際ワークショップの成果を、学術雑誌に英語で投稿し、科研の成果を国際的に発信できるようにする予定である。中央アジアのウズベク、タジク、ウイグルなどムスリムの治療者および伝統医療に関する先行研究をふまえると共に、近接するシベリアのようにキリスト教が浸透した後に社会主義を経験した地域や、モンゴル及びチベットなど仏教が浸透した地域に関する文献も渉猟して、カザフに関するフィールドデータとの比較検討を進める。その上で、1)伝統医療を含む多元的医療体系の形成と展開、2)イスラームおよびシャマニズムと伝統医療の社会的布置の2点を中心に分析していく。 なお、この科研の開始時に感染症は研究の射程に入っていなかったが、新型コロナウイルス感染症がカザフスタンを含む中央アジアの社会に与えている影響はきわめて大きい。こうした状況に鑑み、現地渡航できない状況下ではあるが、感染症の影響についてもできる限り情報を収集して分析を進めていきたい。 現在、科研代表者は健康上の理由により休職中であるため、復職後の2021年7月から研究活動を再開する。今後の状況によって遅れが生じる可能性もあるが、段階的に準備を進めて年度末までに学術雑誌に投稿する計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、国外でのフィールドワークが実施できなかったこと、国際ワークショップへの国外からの参加者がオンライン参加となったことから、旅費を使用しなかったため次年度使用が生じた。国際ワークショップの成果を学術雑誌に英語で投稿するため、次年度の予算は主に録音データの文字化(テープ起こし)、英文校閲費、関連書籍購入費として使用する予定である。
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[Journal Article] 宗教性の領域で考える2021
Author(s)
川口幸大・別所裕介・藤本透子
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Journal Title
長谷千代子・別所裕介・川口幸大・藤本透子編『宗教性の人類学――近代の果てに、人はなにを願うのか』京都:法蔵館
Volume: -
Pages: 377-389
Peer Reviewed
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