2023 Fiscal Year Annual Research Report
Cultural Anthropological Study on Traditional Healing and Islam in Kazakhstan
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16K02028
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
藤本 透子 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 准教授 (10582653)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 伝統医療 / イスラーム / シャマニズム / 世界観 / 身体観 / 文化人類学 / カザフスタン / 中央アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
成果の取りまとめに向けて、カザフを中心とするテュルク系諸民族の世界観と身体観に関するロシア語・英語文献を渉猟して読み込み、病気の治癒や子授け祈願のための参詣地となっているカザフスタン北東部の洞窟について、20世紀初頭の記録と2010年代におけるフィールドデータを比較検討した。その結果、20世紀初頭にはカザフ人によってヒツジの供犠とろうそくを用いた儀礼が行われていたが現在では行われていないなど、参詣の形態には変化がみられた。その一方で、洞窟内の水に薬効があるとみなされ続けている点では一貫していることもわかった。 なぜ病気快癒や子授け祈願の場となってきたのかを明らかにするため、この洞窟にまつわる口頭伝承を検討すると、3つの異なる系統の伝承が併存していた。テュルク系遊牧民が古くから信仰してきた天空の神であるテングリやその妻とされる女神ウマイにかかわる伝承、古代テュルクのカガンの移動や即位にかかわる伝承、イスラームの聖者にまつわる伝承である。このうち最も流布しているのはイスラームの聖者伝承であるが、洞窟をウマイの胎内とみなすテュルクの世界観が子授け祈願に結びついている可能性がある。また、病気快癒祈願の背景には、洞窟内に限らず草原の泉など良質の水が湧く場所を聖地とみなすテュルクの信仰があると考えられる。これらの点について英語論文の草稿をまとめた。 また、墓制とその変遷について論集収録予定の原稿を校正したほか、祖先の霊魂に関する信仰について中央ユーラシアの諸民族および日本と比較分析し、ユネスコとカザフスタンの研究所が共催した国際会議にオンライン参加して口頭発表した。この会議には中央アジア諸国のみならずトルコやモンゴル国も含めて多数の研究者が参加しており、これまでの研究成果の一部を発信できたと同時に、比較の観点から有意義な知見を得ることができた。
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