2017 Fiscal Year Research-status Report
韓国のフィリピン人女性エンターテイナーをめぐるジェンダー・ポリティックスの研究
Project/Area Number |
16K02034
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Research Institution | Aoyama Gakuin Women's Junior College |
Principal Investigator |
辻本 登志子 青山学院女子短期大学, 現代教養学科, 助教 (50749851)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 移民女性 / 移住労働 / 人身取引 / フィリピン人 / エンターテイナー / 韓国 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は計二回の韓国における調査を、それぞれ1週間から10日間程度実施した。今年度もフィリピン人女性「エンターテイナー」や、かの女らを取り巻く政府機関やNGO、そして民間業者などを対象として調査を行った。 2016年度同様、フィリピン人女性「エンターテイナー」受け入れに関する韓国政府関係者への聞き取りは困難を極め、現地に研究協力者を得て様々なアプローチを試みたものの、書面での回答を得るだけに至った。しかしながら、2017年度は2016年度の研究調査の蓄積により、韓国現地において調査への協力を仰ぐことができる団体及び個人と出会うことができ、2016年度よりは研究調査もスムーズに進展した。 2017年度はソウルやその近郊だけでなく、韓国南部の港市においても予備的調査を行った。例えば、同地域の遊興施設密集地帯において稼働する韓国人及び移民女性を対象とするアウトリーチを実施してきたNGOや、韓国の造船業の発展と男性・女性移民労働者の流入について詳しい現地の専門家からも聞き取りを行い、韓国の主要産業であった造船業と遊興施設で働く移民女性流入との関わりについて、新たな視点を得ることができた。これまで駐留米軍とのつながりの中でフィリピン人女性「エンターテイナー」が韓国に移住したと考えられてきたが、産業面における韓国のグローバリゼーションという側面からもアプローチする必要があるということを認識するに至った。 1990年代初頭以降、熾烈な国際競争にさらされる中、韓国の産業界を支えてきたのが「雇用許可制」を通して製造業に従事する男性移民労働者でもあるが、遊興施設で稼働する女性移民労働者はこのような男性移民労働者の流入とも関連している。移住労働と人身取引が交錯する地点を、駐留在韓米軍だけでなく、グローバリゼーションによる韓国の産業構造との変化から捉えていくことの必要性を認識した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2017年度は計二回の韓国における調査を実施することができたものの、2016年度に実施したフィリピンにおけるフォローアップ調査を実施することができなかった。また、送り出し先において、フィリピン人女性「エンターテイナー」のリクルートや斡旋を行っている機関へコンタクトを取ることもスムーズにいかず、これは課題として残っている。 一方、フィリピン女性「エンターテイナー」だけでなく、ホテルやその他の遊興施設でバンドのボーカルや楽器演奏などを行っているフィリピン人男性「エンターテイナー」にも聞き取りを若干行うことができた。そして、韓国において外国人が歌やダンスなどの芸能活動に従事する際に発給される「興行芸術ビザ(E-6-2)」で来韓するフィリピン人及び外国人「エンターテイナー」が共通して直面する課題などについても、知見を深めることができた。そして、ソウルのフィリピン人コミュニティなどにおいて、元「エンターテイナー」であった女性たちからも聞き取りを行うことができ、より多様な「エンターテイナー」としての経験や、かの女らが直面した問題等についても話を聞くことができた。 依然として、フィリピンから韓国までの「エンターテイナー」送り出しと受け入れの過程や制度的な枠組みに関しては、明らかにしなければならない課題が多々残されている。今後、これまでの調査に協力してくださった方々との接触を継続しながら、「エンターテイナー」とかれら/かの女らと関わる人びとへの聞き取りも深め、不明瞭なまま残されている研究課題を一つ一つクリアにしていく作業を重ねたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年としての2018年度は、韓国におけるフォローアップ調査と、フィリピンにおける民間業者に関する調査を行う予定である。また倫理的に問題にならない範囲において、フィリピンへ帰国したフィリピン人女性元「エンターテイナー」に聞き取りを実施することを考えている。 そして、これまで調査等で協力を得た関係者に対して、報告会などを実施することを通して、知見を現場に還元していくことも構想中である。韓国と日本でそれぞれシンポジウムなどを開催し、人身取引に対する両国における認識の差異や共通性を確認し、それぞれの課題を共有するための場を設けることを計画中である。そして事前に渡韓し、シンポジウム開催に関する打ち合わせも行う予定である。 シンポジウムでは、人身取引問題に取り組む団体や専門家、そして一般市民が参加できるような場をつくることを目指す。特に人身取引の外国人被害者支援や外国人被害者の滞在国における処遇について日韓の現況を確認し、それぞれの課題を認識するとともに、相互に学び合うための率直な意見交換が行えるような機会として位置づけていくことを構想中である。 2018年度はその他にも、論文執筆等の研究成果発表も精力的に行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた要因は、2017年度に計画していたフィリピンでの調査が実施できなかったためである。新しい職場への異動等で、計画通りに研究調査が進まなかったことも影響している。 この分を2018年度のフィリピンでの調査費用に充て、それ以外の費用は、シンポジウムやワークショップ開催のための会場費や参加者旅費、及び謝金などに充てる予定である。
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