2019 Fiscal Year Research-status Report
18世紀イングランドの別居訴訟―男性専門家たちの働き
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16K02046
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Research Institution | Bunkyo Gakuin University |
Principal Investigator |
赤松 淳子 文京学院大学, 外国語学部, 准教授 (60723004)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 結婚の破綻 / 別居訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18世紀のイングランドにおける夫婦間の別居訴訟に関する記録から、当時の妻たちが自身の婚姻上の利益をどのように追求したのかを、男性の法専門家やアドバイザーの働きをとおして明らかにする試みである。本年度は、近代における妻の婚姻上の権利意識がどのように生成されてきたのか、研究の視点をより明確にするための作業を進めた。具体的には19世紀まで分析の軸をとり、先行研究を整理し直した。昨年度まで18世紀を中心に二次文献を読んできたが、同時代の特質を把握するため、19世紀の婚姻法とフェミニズムに関する研究動向を把握した。18世紀の別居訴訟をめぐる弁護士の記録、家族文書を分析しつつ、訴訟当事者となった妻たちと彼女たちを取り巻く人々の意識を、19世紀フェミニズムへと繋がる動きのなかで捉える作業を行った。 今年度は2度、研究発表の機会を得た。2019年6月には「文京アカデミア講座」にて18世紀の結婚と夫婦関係の破綻について講義した。7月にエディンバラ大学にて開催された15th International Congress on the Enlightenment では、18世紀のチョムリー家を事例として、婚姻の破綻における夫婦間の交渉について’Law and Literature’のセッションで成果を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
家族文書を一次史料として事例研究を進めてきた。今後は比較材料の不足を補う必要がある。イギリスの文書館にて調査を行う予定でいたが、COVID-19の影響で渡英を延期した。
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Strategy for Future Research Activity |
18世紀末のイギリスにおいて「女性の権利」をめぐる議論に関わった男性たちを分析した研究が、近年Arianne Chernockによって発表された(Men and the Making of Modern British Feminism, Stanford University Press, 2010)。Chernockの視点を土台として、18世紀前半にまで分析軸を伸ばし、女性の婚姻上の権利をめぐる専門家や当事者たちの家族による法的実践を分析していく。2018年度にイギリスの文書館にて入手したDineley家とCorbert家の史料分析を進める。婚姻の破綻に関する手紙、裁判における証言、弁護士の意見書、裁判費用に関する文書、別居証書を史料として、両家の事例研究を完成させる。18世紀に出版されたパンフレット、新聞も分析対象として含める。 別居に際して夫婦間で財産がどのように分配されたのかをさらに詳細に研究する必要がある。チョムリー家の他にあと数件の事例を得るための補足調査が必要であるが、COVID-19の影響で訪問を予定していた文書館が現在閉館している。2020年は状況を見ながら、すでに入手した文書とオンライン・データベース上の史料の分析を中心に進める。
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Causes of Carryover |
補足調査のための旅費が未使用となった。再度文書館への訪問が可能になり次第、使用する予定である。また二次文献の購入も検討している。
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