2016 Fiscal Year Research-status Report
友敵感情論を基軸とした「共通感覚」の倫理学の構築:シンパシーからテレパシーへ
Project/Area Number |
16K02112
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
宮崎 裕助 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (40509444)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 動物 / 友愛 / ハイデガー / デリダ / アガンベン / アリストテレス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の初年度である26年度の研究実績は、主に以下の二つの視点から、「共通感覚」の倫理学にとっての予備的な諸前提を解明したことにある。 第一に、共通感覚としての政治的情動の基礎をなす、いわば世界感覚に関して、西洋哲学史に見られる人間/動物の区分の再検討を通じて、両者の対照とこの区分に潜む歴史的偏見を解明した(論文「人間/動物のリミトロフィー」)。 動物的貧しさにこそ世界経験の「本質的な震撼」を見出すというハイデガーの議論は、動物的な「貧しさ」の気持ちのうちに、むしろ人間以上に「豊か」で濃密な情動的経験の可能性をみてとることができた。しかし、そこに人間中心主義的な価値秩序への批判、動物的生の一種の理想化のような論点が引き出されるにしても、ハイデガーが動物的生の本質の分析に入り込むにつれてますます浮き彫りになるのは、人間がそこに到達することの不可能性であり、人間とその他の動物との決定的な差異にほかならない。 第二に、共通感覚を形成する親密性に関して、アリストテレスの友愛論を取り上げ、ジャック・デリダとジョルジョ・アガンベンの立論の対比から、友愛の本質をなす、慈愛の非対称性を解明した(国際学会での発表 ”Towards Another Aristotelian Tradition of Friendship”)。 『ニコマコス倫理学』の子どもを養子や里子に出す母親の例が示唆しているのは、そのさいには、アリストテレスの公式的な友愛論が理想としていたような相互的で平等な友愛の分かち合いはないという点である。そこからアリストテレスに見いだされるもうひとつの友愛論が指し示すのは、いわば「死者への愛」という不在の対象への友愛を、友愛の可能性の条件として思考しているということである。つまり、死者をも愛することのできる一方的な友愛がなければ、友愛の本質は思考不可能なままにとどまるのである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
後に示すように、図書での論考、学術雑誌の寄稿、国際学会や全国規模の学会といったかたちで、成果を出すことができた。これは当初の計画で考えられていた水準をおおむね達成するものとなっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究は順調に進展しており、特記すべき問題等は生じなかったため、当初の研究計画通りに推し進める予定である。
|
Research Products
(8 results)