2019 Fiscal Year Research-status Report
抽象の問題を軸とした初期近代における数学と哲学の相互交流に関する数理哲学史的研究
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16K02113
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
池田 真治 富山大学, 学術研究部人文科学系, 准教授 (70634012)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 数理哲学史 / 抽象 / 概念形成 / ライプニッツ / 連続体 / 点 / 初期近代 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、抽象と概念形成をめぐる哲学史の研究を中心に研究を進めた。また、昨年度に浮上した連続体と抽象の問題について予備的な研究を行なった。年度末には、パリに短期研究滞在し、国際的な研究交流を推進した。主な研究成果は以下の通り。 【研究発表】国内では、日本ライプニッツ協会において、「ライプニッツと連続体の歴史」について発表した。また、科学基礎論学会・秋の研究例会において、シンポジウム「集合と連続体の哲学」に登壇し、「点と連続体をめぐる数理哲学史」について発表した。また海外では、フランス・パリにおいて、「ライプニッツと抽象の問題」および「ライプニッツにおける虚量の本性」について発表した。 【国際的な研究交流】昨年日本に招聘したダヴィド・ラブアン博士(CNRS-パリ・ディドロ大学)から、パリに客員研究員として招聘いただいた。こちらの事情により15日と短期ではあるが、フランスでCovid-19の感染が拡大するなか、最大限の援助をいただき、エコール・ノルマルとパリ・ディドロ大学において、2つの国際発表を無事行うことができた。この場を借りて、感謝したい。また、感染拡大の影響で縮小開催された「デカルトとガッサンディ」のコロックにも参加し、研究課題である抽象の問題に関わる研究発表を聴くことができた。ガッサンディとデカルトの論争が、まさに抽象の問題と関わるものだったのである。エコール・ノルマルやCNRSをはじめ、第一線で活躍するフランスの研究者と交流することができたことは、今後の研究の進展にとっても大きいと言えよう。 【研究会】抽象と概念形成の哲学史に関して、若手を中心とする研究グループを結成し、月に1~2回程度の勉強会を行なっている。手始めに2020年度の日本哲学会岡山大会のークショップで成果を発表する予定であったが、大会そのものが中止になった。ただし、研究会そのものは継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究発表としては4本と十分な量をこなしたと思うが、国際的な業績が求められる今日において、査読論文を一本も出せなかったことが悔やまれる。わたし個人の力不足もあるが、大学改革など様々な問題がある中、子育ても加わって、まとまった時間の確保ができないことが挙げられる。一般的・啓蒙的な原稿を執筆する仕事が加わったことも一因である。とりわけ12月には、胃腸炎となり、体調の回復に数週間を要したことが大きいと思われる。
また、今年度から始めた「抽象と概念形成の哲学史」の研究会のオーガナイザーとして、分野全体を活気づける使命を果たしていると思うが、その反面、個人の研究そのものに集中できていないことが挙げられる。しかし研究の視野としては広がっており、見通しもできてきた。本課題の現代的意義を見据える意味でも、さらに現代的な方面にも、研究の輪を広げることの必要を感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2020年度には、抽象の問題の観点から、初期近代における数学と哲学の相互交流に関する数理哲学史ついて研究報告書を作成すべく、これまでの研究をまとめつつ、新たな研究動向も踏まえて整理したい。 また、これまでの研究発表について、国際的な学会誌に論文として発表することを目指す。 2019年度の研究によって浮上した自身にとって根本的な研究課題として、連続体の問題と抽象の問題が接続したことがある。すなわち、連続体という幾何学的対象はいかにして概念としてわれわれの心に獲得ないし形成されるのか、という問題である。この方面では、数学や哲学における研究に限定されず、近年の心理学における概念形成や認知神経科学における数学的認知についても踏まえる必要がある。数の認知メカニズムについてはドゥアンヌらをはじめ近年解明が進んでいるが、幾何学的認知については、まだ科学的研究が始まったばかりであり、哲学的にも注目を要する。 国際交流に関しては、日仏のライプニッツ研究や数理哲学方面での交流を進展すべく努力したい。なお、2021年度にフランスで行われる日仏共同によるライプニッツ・シンポジウムに登壇予定である。また来年度以降になるが、海外での長期滞在研究も視野に入れている。ハノーファーのライプニッツ文庫館、および、パリ・ディドロ大学などでの滞在を考えている。 「抽象と概念形成の哲学史」の研究会に関しては、今年度もオンラインでの研究会を継続しつつ、オンラインでのワークショップの代替開催を計画している。最終的には、研究会の成果は、報告書として、あわよくば書籍として刊行する予定である。抽象と概念形成をめぐる問題については、目下のところ哲学史のアプローチを中心として活動しているが、さらに現代の方面(現代哲学や認知神経科学・情報科学など)にも研究交流を広げ、共同研究の可能性を模索していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で、参加する予定の学会(ライプニッツ協会・春季大会)が中止となったため、とっておいた旅費分がそのまま使用できずに残った。
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Remarks |
「ライプニッツの未編集の数学的著作の版と注釈」のプロジェクトの一環として、CNRS-Paris Diderotの客員研究員としてパリに滞在し、パリ・ディドロ大学にて"imaginaire"をテーマとする研究集会で発表、および、エコール・ノルマル・シュペリウールのマテーシス・セミナーにて研究発表を行なった。
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Research Products
(9 results)