2019 Fiscal Year Research-status Report
西洋古代哲学におけるスケプシス(skepsis)の展開―考察から懐疑へ―
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16K02116
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
金山 弥平 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00192542)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 探求 / 懐疑 / 幸福 / 仮設 / ソクラテス / プラトン / ストア派 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、スケプシス(skepsis)の実践における対話性を中心に研究を進めた。これは、知への接近としての「共同探求」という面をもつが、他方、対話相手をアポリア(行き詰まり)に陥らせる側面に注目すれば、知への接近を阻害する面をももつ。その、言わば岐路に立つのがソクラテスである。どちらに進むかは、自分は何も知らないとして相手の探求を促そうとするソクラテスの試みに対して、対話相手が探求を嫌がるか否かにかかっている。 この点で興味深いのが、プロタゴラスが登場するプラトン対話篇『プロタゴラス』である。この対話篇を考える際には、このソフィスト御大における「知の自認」とそれに基づく探求の拒否に焦点を当てる必要がある。その観点から研究した成果の一つが、論文「共にあること、共に進むこと―プラトン『饗宴』と『プロタゴラス』―」である。 また相手を巻き込んで探求の道を進むことを目指す探求者自身の側からすれば、独断を避け、自分の考えをも「仮設」のレベルに留め続ける必要がある。この言わば懐疑主義的な観点から、「仮設法」について、プラトンのそれと医術のそれを比較して論じたのが、論文「古代ギリシアの医学哲学―『古い医術について』とプラトンのhypothesisの方法」である。 「共同探求」について、私自身の研究交流についても一言触れておきたい。2019年度は、カナダ、SFUのマーク・マクフェラン教授、チリ、Alberto Hurtado Universityのレアンドロ・デ・ブラシ教授、シンガポール、Yale-NUS Collegeのマシュー・D・ウォーカー教授、ノルウェー、オスロ大学のオイヴィン・ラッパス教授、トマス ・ヨハンセン教授と実りある研究打ち合わせを、国内外でもつことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度までの順調な進展から予測・期待していたようには、2019年度の研究は進展しなかった。これは一つには、前年度の研究を通して見出した新たな主題・構想――ソクラテスに現れたダイモニオンの合図に関する新解釈、プラトン『プロタゴラス』でソクラテスが詭弁とも思われる議論を行う理由、プラトン対話篇の対話設定年代が、ソクラテスの刑死と、プラトン哲学の発展に対してもつ意義――が、まだ端緒についたばかりであることによる。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間延長承認申請を行い、(1)ソクラテスに現れたダイモニオンの合図に関する新解釈、(2)プラトン『プロタゴラス』でソクラテスが詭弁とも思われる議論を行う理由、(3)プラトン対話篇の対話設定年代が、ソクラテスの刑死と、プラトン哲学の発展に対してもつ意義、といった研究課題について理解を深め、また「研究実績の概要」欄に記した国際的研究者たち、さらには英国オックスフォード大学のアンナ・マルモドーロ教授、ルーマニア、Alexandru Ioan Cuza Universityのエイドリアン・ムラル教授との交流を通して、国際発表を行う計画であった。また9月には、チリ、サンティアゴでマルセロ・ボエリ教授、レアンドロ・デ・ブラシ教授が開催する国際シンポジウムにおいて、ゲスト・スピーカーとして講演する予定であった。しかし、新型コロナウイルス問題で、現在のところそれは不可能になっている。 それゆえ、今後の研究は国内で、上述の三つの主題を、とくにプラトン『プロタゴラス』を中心に据えて進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、Skepsis(考察)における探求者の友愛につき、またプラトンと古代懐疑主義の双方に関して得られた新たな発想を、さらに展開し精緻にするため、2020年9月にチリ、サンティアゴで、一つはプラトンの徳理論について、もう一つは懐疑主義の対置について発表し、また英国オックスフォード大学とルーマニアのアレクサンドル・ヨアン・クザ大学でも発表を計画していた。そしてそのために本科学研究費の期間延長申請をし、認められていた。ところが、新型コロナウイルス問題で、国外での研究発表が可能かどうか、見通しはまったく立っていない。そのため、当初の予定どおりに研究経費を利用できるかどうかは不明であるが、しかし状況に応じて、最も有効に経費を使わせていただきたいと考えている。
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Research Products
(5 results)