2016 Fiscal Year Research-status Report
ヘノロジー概念に基づく形而上学史の構築‐哲学史のグランド・セオリーをめざして‐
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16K02119
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福谷 茂 京都大学, 文学研究科, 教授 (30144306)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ヘノロジー / 形而上学 / カント |
Outline of Annual Research Achievements |
近世哲学史上の代表的哲学者たちの解釈に関してヘノロジーの観点の浸透を図るという目的に関しては以下のような成果が得られた。①デカルトは『精神指導の規則』を重視することによって『純粋理性批判』のカントと一体化しヘノロジーの系譜に位置付けられる、②スピノザはカントの『遺稿』との密接な連関のうちに置かれることで相互に解明し合う面を有している、③ライプニッツはスピノザとヘーゲルをブリッジしつつカントとの対比においては近世的ヘノロジーのもう一つの選択肢を示している、④ヘーゲルは「系列の自己救済」というヘノロジカルな性格を有する点においてハイデガーのヘーゲル批判にもかかわらず連関する面を持つ、⑤ 西田幾多郎の弁証法が「場所的弁証法」として成立しなければならなかった理由は西田が「形而上学序論」において受容したヘノロジーの系譜を参照することで理解できる 以上である。 さらに得られた成果としては、いわゆる形而上学的な性格を有する上記の哲学者たちのみならず、一見したところではヘノロジーとは無縁であるかのように見える哲学者、例えば古代のストア派や近世のヒュームにおいてもヘノロジーの伏在を認めることができ、この点を考慮に入れることでこれらの哲学者たちに関する理解を深めることができることが明らかとなった。例えばヒュームはヘノロジーに照らすとその否定神学的な面を表すのであるし、ストア派のコスモポリタニズムはヘノロジカルな論理構造を秘めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は本研究の核心であるヘノロジーの概念を西洋哲学史全体に拡張することに主として労力を投入した。ヘノロジーの概念はもともと古代哲学史研究上の概念として開発されたものであるが、本研究の出発点はそれがカント哲学を理解するうえでも有効であることの発見であった。その後近世哲学上の諸哲学者たちにおいてもこの概念で彼らの理論構造を捉えることができることが見いだされ、その実証に携わってきた。これについては一定の成果が得られたと考えている。また同時に西田幾多郎と田邊元を中心とする日本哲学史上の諸哲学者の研究にもヘノロジーは有効な観点となることが明らかとなり、ヘノロジーのもつ広大な射程が明らかにされた。こうして得られた新しいヘノロジーの概念を用いて哲学史の全体をもう一度見直すという作業が必要とされる段階を迎えたのが昨年度の状況であった。このような視点の一端は昨年9月に行われた新プラトン主義協会での招待講演において提示され、出席者から好意的な反応を得たと考えている。そこで以上のような研究経過を「オントロジーからヘノロジーへ」という図式において捉え、西洋哲学史における古代・中世哲学史から近世哲学史への移行という時代区分の基準として集約するという課題が浮かび上がってきたのが現在の状況である。本来の目的であるヘノロジー概念による形而上学史の再構築という目的のため、さらに視野の拡大と深化が必要であり、また可能であることが明らかになってきた。これが現在までの進捗状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
デカルト、スピノザ、ライプニッツ、カントなど近世哲学史上の重要な哲学者たちをヘノロジー概念の下に包摂するための一応の見通しが得られたことを踏まえて、今後の研究展開のための方策としては以下の諸項目を考えている。 ① ヘノロジー概念の一層の展開のため、近世にとどまらず古代・中世の哲学史への応用をさらに試みる。具体的にはプラトン解釈においてヘノロジーと関連性の深いテュービンゲン学派の業績を吸収しプラトンの「書かれざる教説」に関するクレーマー=ガイザーの主張の射程をヘノロジーという観点から再検討する ② ヘノロジーの枠組みに一見したところ入りにくい外観を呈している哲学者たち、例えば近世のヒュームや古代のストア派などに関しても解釈上ヘノロジー概念が果たしうる役割について得られている着想があるので、それを具体化してゆく ③ 以上のような諸点に関して得られた成果をそれぞれの分野の専門家に対して発信し、その知見をフィードバックしてゆく ④ 日本哲学史に関してもヘノロジー概念を本格的に活用した成果を公表し、研究者のコメントを求める 以上である。
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Causes of Carryover |
なし
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
なし
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Research Products
(1 results)