2016 Fiscal Year Research-status Report
空間にかんする綜合的な人文学研究--哲学と創造実践の対話
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16K02121
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
篠原 雅武 大阪大学, 国際公共政策研究科, 特任准教授 (10636335)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 空間哲学 / エコロジー思想 / 建築家との対話 / ティモシー・モートン |
Outline of Annual Research Achievements |
空間表現に関する研究として、多木浩二による篠原一男批評のテクスト読解を踏まえた論文を作成し、京大人文研の紀要『人文學報』に投稿し、受理された。多木における現象学的な空間論の意義と限界を検証することに重きを置いたが、1970年代における建築批評の型を定めた多木の議論の理解を進めることは、日本におけるそれ以後の建築思想の変容、空間哲学の方向性を見定める上で重要であった。さらに、2016年5月のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の制作委員としてヴェネチアに行き、国内の建築だけでなく、国際的な建築の動向について広くサーヴェイを行った。2016年末には、ビエンナーレに関わった五人の建築家へのインタヴューを行った。これらのサーヴェイは、現代における空間思想の広く知るうえで重要であったが、次年度以降、空間哲学のさらなる体系化と理論化を行うための素材集めとしての意義があったと考えている。 また、空間哲学にかんする研究としては、現代における空間思想の世界的動向のサーヴェイを行うために、8月にライス大学のティモシー・モートンのもとを訪問し、インタヴューを行った。そして、このインタヴュー成果と、さらにモートンの主要著作の読解をもとにした単著(『複数性のエコロジー』)を以文社より刊行した。世界における空間哲学の動向を広くかつ詳細に知り、その可能性について自分なりに批評的に検討しておくことは、詳次年度以降の空間哲学研究の方向性を見定める上でも重要であったと考えている。10月以降はドゥルーズの『差異と反復』の読解と関連文献の収集を進め、次年度に投稿する論文のための準備を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次年度(平成29年度)以降の「発展」にむけた現状把握は、ヴェネチア・ビエンナーレへの参加をつうじた現状のサーヴェイ、日本の建築家へのインタヴューと記録により、おおむね達成された。研究計画段階では、いまだに見取り図でしかなかったものが、実際の見学・聞き取りにより、研究の支えとなるべき建築実践現場にかんする具体的な状況分析、実際に何が問題になっているかを把握することができた。また、ライス大学のティモシー・モートンへの訪問は、次年度以降を予定していたのだが、たまたま応募者が彼に関する著作を準備していた都合上、今年度に行うことができた。エコロジー思想の現状に関する多くのことを教えてもらっただけでなく、関連資料の収集、アメリカにおける思想家・研究者・実践者のネットワークの現状について知ることができた。次年度以降、マヌエル・デランダやグレアム・ハーマンへの訪問を予定しているが、そのための布石にもなったと考えている。さらに、多木浩二と篠原一男の交流に関する論文の作成は、応募者が今やろうとしていることの先例を知る上で重要であった。論文作成に際しては、多木の著作の読解だけでなく、現代の建築家へのインタヴューなどを行い、篠原一男の位置づけ、影響を知ることもできた。すべてを論文に反映することはできなかったが、今後、日本における空間思想の研究を深めるうえで、重要な布石になったと考える。篠原の弟子である坂本一成、その後継者である塚本由晴にまでつづく建築実践と並走して可能な哲学思想の知はいかなるものかを考えることが課題として見えてきたのがその最たる収穫であった。また、今年度は、単著『複数性のエコロジー』を刊行した。この著書は、モートンへのインタヴューおよび彼の著作の研究をベースにしつつ、今後の空間哲学の可能性を探ろうとするものであったので、本研究の重要な成果の一つと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度も、引き続き、文献読解とインタヴュー・現地調査を組み合わせて、研究を進めていく。文献読解としては、ドゥルーズの哲学における「空間」の問題について研究を進め、論文化する。28年度の研究で、ドゥルーズが「構造主義」に関する論文で示したノマド的配分に関する考察が『差異と反復』で展開されていることへの理解を深めてきたが、この考察の成果を、夏までに論文にして国内の査読誌に投稿する。さらに、日本の戦後における空間思想と実践の対話に関する考察としては、前年度おこなった多木浩二をめぐる考察(文献読解を中心とする)を、坂本一成とのかかわりのなかで進めていきたい。また、それと同時に、現代の若手を中心とする建築家への聞き取りも進めていく。国内の出版社で聞き取りをベースにした著書の刊行に興味を示しているところがあるので、そこの編集者との共同で、商業出版を目指した研究作業を継続していく。また、今年度は京大人文研に所属しているが、29年度より新たに開始された共同研究班「生と創造の探究」への参加を通じ、空間に関する哲学考察の成果を発表するなどして、理解を深める。夏にはアメリカの南カリフォルニア建築大学を訪問し、そこに所属しているグレアム・ハーマンへのインタヴューを行いたいと考えている。また、自著の『生きられたニュータウン』をもとにして英語の単著を書いているが、すでにできた章をブラッシュアップし英語論文にして投稿することも予定している。
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Causes of Carryover |
600円台という、文庫一冊程度の金額が余ったが、特に必要な文庫がなかったので、次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
建築系の文庫が刊行されているので、その購入に当てる予定である。
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Research Products
(4 results)