2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02122
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
入谷 秀一 龍谷大学, 文学部, 講師 (00580656)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | セクシャリティ / 女性的なもの / 脱自然化 / ハーバーマス / アドルノ / ホネット / 心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
提出済みの研究実施計画に従い、本年度は、フランフルト学派第一世代、特にアドルノにおけるセクシャリティの問題を検討するとともに、学派全体の思想的変遷における心理学・精神分析の位置価の分析を行った。アドルノらにとって心理学は、特にフロイトがそうであったように、リビドーに代表される人間の自然本性の価値評価の問題と不可分であったが、ピアジェやコールバーグらによって開拓された発達心理学へと接近した第二世代にとって、リビドーの問題は背後に退き、代わってコミュニケーション行為の妥当性が議論の中心を占めるようになる。リビドーから言語へとパラダイム・シフトが起こり、心理学の「脱自然化」が遂行された、とも表現できるが、その担い手は、言うまでもなくJ・ハーバーマスである。以上のような文脈を研究論文にまとめたものが「ハーバーマスと批判理論」だが、これは加藤哲理・田村哲樹編『ハーバーマスを読む』、ナカニシヤ出版、第二部第第6章として、2018年内に刊行されることが決定している。さらにアドルノ思想における女性的なものの影響を明らかにした論考として「女達の影、女という影――アドルノのセクシャリティを覗く(1)」(『龍谷紀要』第39巻第1号、龍谷大学編、65-79頁、2017年9月)が刊行された。また、戦後から現代にいたるフランフルト学派の思想動向をフォローする目的で、研究者自身がメンバーとして属している批判的社会理論研究会に参加し(第32回は2017年9月9日-10日に東北学院大学で、第33回は2018年3月3日-4日に大阪大学で開催)、資料収集と議論を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
出版社からハーバーマス論集の共著者として誘われたことが、フランクフルト学派第二世代における身体・自然・フェミニズムの問題を再検討する推進力となり、研究が進む結果となった。ただし全てが順調というわけではない。当初の計画では68世代の文化的イコンであり、アドルノやフーコーとも親交のあった精神分析家R・ライヒェの著作の分析を通じて、戦後ドイツにおけるセクシャリティ経験の見取り図を構築する予定だったが、この点がやや進捗が滞っており、最終年度の課題として残っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
批判理論の議論を、現代のドイツ・英米圏のフェミニズムのコンテクストという、より巨視的なポジションに置き、そのアクチュアリティを検討するという最終年度の研究計画を予定通り実施する。具体的には、アメリカのフェミニズム研究の第一人者D・コーネルのアドルノ論(Renee Heberle (ed.), Feminist Interpretations of Adornoに収録のインタビューなど)を研究媒体に載せて公刊し、さらにアドルノの教え子であり、ドイツを代表するフェミニストR. Becker-Schmidt(フランクフルト大学教授)らの著作の分析・検討を行う。さらにベッカー‐シュミット教授も在籍するフランクフルト大学の「女性および性関係の研究のためのコーネリア・ゲーテ・センター」とコンタクトを取り、学術交流を深め、現代ドイツにおいてフェミニズムやセクシャリティがどのように議論されているか、現状と課題を考察し、報告する。
|
Causes of Carryover |
(理由) 物品(図書資料等)の購入に比して、学会参加等の費用が比較的抑えられたことが原因であると考えられる。 (使用計画) 次年度はドイツの「女性および性関係の研究のためのコーネリア・ゲーテ・センター」のような国際研究機関との学術交流等を、より活発に行いたい。
|