2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02123
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
入江 幸男 大阪大学, 文学研究科, 教授 (70160075)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 心脳二元論 / 心脳一元論 / 心の一元論 / 脳の一元論 / 自由意志論 / 道徳命令の正当化 / 刑法の正当化 / 国家契約論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、次の二つの課題を設定していた。課題1(現代の心の哲学の主要な立場と自由意志論の組み合わせの類型を確認すること)に関する成果は、次である。この観点で最も重要と思われるLivetの有名な実験について検討した。Livetは、その実験によって直ちに自由意志が否定されるとは考えておらず、自由意志論との両立が可能であると主張できることを示している。そこでそれを踏まえた上で、<問いが立てられ、それに対する答えが出されるという一定の時間経過をもつプロセスとして、自由な意志決定が成立する>という仮説を立てて、その検討を始めた。問答の中での決定が、意志決定を自由なものにする可能性がある。もちろん、この探求は同時に、自由な意思決定をどう定義するか、という探求と不可分に結びついている。 課題2(現代の心の哲学の主要な立場と規範論の組み合わせの類型を確認すること。ここでは<心の哲学についての有望な諸立場が 、どのような道徳論、正義論と結びつく可能性を持つのか>を検討する)に関する成果は、次である。この検討の中で、ブランダムの行為の規範性の理解が、非常に興味深いものであることがわかった。それは、デイヴィドソンの行為の因果説を批判して、行為が意図的であることと理由を持つことを区別し、理由を持たない意図的な行為の存在の説明しようとする。この議論の中で、ブランダムは、サールが考える約束モデルでの行為の規範性を説明を批判しており、この議論は、社会構築主義についてのサールとはことなるアプローチを示している。つまり、契約によって社会制度の構築を説明する社会契約論を批判し、行為主体を前提せずむしろ行為主体と、行為の規範性が、言語共同体の中で成立するメカニズムを説明することになるだろう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の二つの課題に関して、上記に示したように、それぞれ興味深い成果が得られたので、おおむね順調である。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、(1)心の哲学の有力な諸立場、それに対応する言語の規範性の理解、それに対応する道徳の規範性の理解の連結関係の分析を、カント、フィヒテ、シェリング、ヘーゲルにおける心の哲学と道徳と法論と国家論の連結関係に適用して分析を行う。つまり、彼らにおける言語の規範性と、道徳の規範性、法の規範性、の連結関係を分析する。 (2)次に現代のメタ倫理学における道徳的言明の捉え方の区別を、ドイツ観念論に適用し、それらをどのように分類することになるのか、あるいは<メタ倫理学の分類の見直しが、必要かどうか>を検討する。 (3)心の哲学の一定の立場に基づいて試みられている道徳研究、法研究を調査する。その際とくに重要な課題になるのは、(a)<心の消去主義を前提するときに、道徳や法の規範性がどうなるのか>である。(b)もう一つの重要な課題は、超越論的論証に関するものである。フィヒテは道徳についての超越論的な論証をおこない、ヘーゲルもまた超越論的論証の一種だと解釈できるだろうが、<道徳の超越論的論証は、心の哲学のどのような立場と両立可能なのか>を検討する必要がある。 (4)昨年度の成果をもとに、個人の存在を前提した国家契約説とは異なる仕方での国家の説明を検討する (5)以上の研究に基づいて、初年度の成果をもとに、最終的に<心の哲学と道徳論と法論の連結体の基本的な類型論>を提案する。
|
Causes of Carryover |
関連図書の購入リストの作成が間に合わずに、次年度に伸ばしたこと、海外から研究者(ネブラスカ大学のKim教授)を招いて講演会を行ったが、それの経費を他から調達することができたこと、もう一人海外から研究者を招きたかったが先方の都合のためにじつげんできなかったことなどのために、費用が浮いたことが理由である。 (使用計画)今年度も、昨年度に引き続いて図書の購入を継続したい。5月に韓国の大学での講演会、8月に開催される世界哲学会での発表、などを現在計画中である。また現在計画中の著作の翻訳を進める計画であり、そのネイティヴチェックの費用が当初の計画よりは増えるだろうと考える。海外研究者を招いて研究会を予定しているので、その費用がえるが、 昨年度の旅費の削減分をこれに当てる予定である。
|