2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02127
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
柴田 健志 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (80347088)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 三項関係 / ミラーニューロン / 他 / 他者 / サルトル / 集列性 |
Outline of Annual Research Achievements |
対象の知覚および模倣に関する近年の実証的研究成果は、三項関係を人間の認知活動の基本的な構造として認めるという点で共通している。したがって、次の点が課題となる。(1)この構造を存在論的な角度から考察し、一般モデルを構築すること。(2)このモデルを使って他の認知現象を解明する論理を構築すること。その際、参照すべき哲学はサルトル(Jean-Paul Sartre:1905-1980)の哲学である。 この研究課題を追求する手始めとして、研究代表者のこれまでの研究を発展させるという手法を採用し、「ミラーニューロン」を存在論的な視点から考察することにした。「ミラーニューロン」が活性化するのは三項関係においてである。サルトルの『弁証法的理性批判』における「集列性」の概念を使ってモデル化をおこなった。上記(1)を部分的に構築し、次年度へつなげる。 その具体的な内容は以下の通りである。ガレーゼは、「ミラーニューロン」が自己と他者のあいだに「共鳴」を作り出すことによって、他者の意図することが身体的なシミュレーションによって感得されるという考えを提案し、それを「身体化されたシミュレーション(embodied simulation)」と名付けた。このアイデアによって、古典的な他我認識のアポリアを乗越えようとした。しかし、「ミラーニューロン」の活動が生み出しているのは、人間が匿名性のなかで誰でもない存在として存在するという社会的存在様態であろう。つまりサルトルのいうように、自分が自分にとってさえ「他」であるという存在様態である。自分にとって「他」であるということは、もともと自分の外からきた行為が自分のなかに生み出されているということである。それが事実であるとすれば、それを可能にしている機構がなければならない。「ミラーニューロン」がその機構であると考えることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三項関係にかんする実証科学の研究成果を哲学的な概念を駆使してモデル化するという作業を、ミラーニューロンにかんする実証研究を対象にしておこなった。その試みは学会で発表された。従来のミラーニューロンの哲学的解釈に対する批判をおこない、かつ対案を提示することが発表の趣旨である。「シミュレーション」とは私が他者になったふりをして他者の意図を理解するという意味であり、自己と他者を区別した上で成り立つ操作である。ところが、「ミラーニューロン」の「共鳴」は他者のふりではなく、自己と他者の人称的な区別なしに生じる過程にほかならない。これは「シミュレーション」とはいえない。ガレーゼは「身体化されたシミュレーション」といっているが、身体化されていようがいまいが、この過程は「シミュレーション」ではありえないことは明白である。したがって、「ミラーニューロン」によって可能になっているのが「マインドリーディング」による相互理解であるという解釈は成立しない。この解釈で問題になっているのは、「ミラーニューロン」のはたらきを二項関係においてではなく三項関係においてとらえ直すことにある。「シミュレーション」解釈は二項関係のなかで「ミラーニューロン」を理解しており、その点で批判されなければならないと考えられる。質疑においては、このような哲学的な解釈の実証科学へのフィードバックがどのようなものなのかについて質問があった。重要な論点であるが、今回は十分な回答をすることができなかった。この点は、さらに基本的なレベルで三項関係のモデルを構築した上であらためて検討すべき論点である。この点を含め、今回は主題的に検討しなかった「視線」を中心にした探求が必要となる。その研究成果は次年度学会発表を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
三項関係の哲学的モデル化のアイデアを学会で発表。題目は「視線の哲学」。サルトルの主著『存在と無』における「視線」の論理をつかって、「ジョイント・アテンション」にかんする実証的研究成果を読み解く。「ジョイント・アテンション」の理論は、幼児が他者という心的な存在を認知する発達段階に関する理論である。しかし、それを「対象」の知覚が成立する条件に関する理論として読み替えることができる。つまり、事物が「対象」として認識される条件を三項関係にもとめる理論として。この読み替えによれば、事物が「対象」として認識される条件は、他者の「視線」が事物に向けられていることの認知であると考えることができる。では、「対象」成立の起点である他者の「視線」それ自体はいったいどんなふうにして「私」に与えられるのであろうか。サルトルを参照しなければならないのはまさにこの点においてである。サルトルの他者論の特徴は、「私」が他者を見ることによってではなく、まったく逆に「私」が他者から見られることによって他者の存在が確認されるという点にある。しかし、「私」を見ている他者の「視線」は「私」だけを見ているのではない。当然のことながら、「私」はそれを世界に向けられうるものとして感じる。まさにその瞬間に、世界は「私」にとって知覚可能な「対象」として与えられるであろう。 この研究を踏まえ、別の学会で発展形を発表予定。題目は「視線と顔」。サルトルの「視線」の論理をレヴィナスの「顔」の論理と比較対照させることによって「視線」の倫理的な側面という新しい側面をつけ加える。サルトルにおいて他者の「視線」が私に向いている場合(二項関係)と同様に、他者の存在は三項関係においても私の自由の制限という否定的な意味をもつものとして理解される。つまり、倫理的な関係へ発展する契機がサルトルの「視線」の論理には見出されない。
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[Presentation] 視線の哲学2017
Author(s)
柴田健志
Organizer
日本哲学会
Place of Presentation
一橋大学(東京都・国立市)
Year and Date
2017-05-20 – 2017-05-20
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