2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02127
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
柴田 健志 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (80347088)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 視線 / 他者 / 対象 / 知覚 / 倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
(一)日本哲学会第76回大会(一橋大学、2017年5月20日)において「視線の哲学:知覚の理論としてのサルトルの他者論」を口頭発表した。 「対象」知覚においては他者の「視線」が重要な役割を果たしているという着眼にもとづいて、サルトルの「視線」の理論を「対象」知覚のモデルとして再解釈した。三項関係における他者の視線の効果を考察した。「私」の存在を事物との癒合関係から切り離し、「対象」として設定するという効果が見出された。この問題点を明確にした点にこの研究の意義が認められる。 「視線の哲学」の研究の目的は、(1)自己=他者=対象という三項関係を存在論的な角度から考察し一般モデルを構築することおよび(2)このモデルを使って他の認知現象を解明する論理を構築することである。今回の発表によって(1)について見通しをえることができた。すなわち、三項関係を存在論的に問い直す際に、知覚論を考慮しなければならないという点である。 (二)西日本哲学会第68回大会(福岡大学、2017年12月2日)において「視線と顔:サルトルをとおしてレヴィナスを読み直す」を口頭発表。 サルトルの「視線」の論理とレヴィナスの「顔」の論理を比較し、三項関係の存在論に含まれる倫理的問題点を検討した。サルトルの「視線」の論理が倫理を語ることができないという点に注目し、その理由を存在論的な次元で明らかにした。 三項関係のモデルの説明力は倫理的な関係性の理解にまで波及するという点を示した。この発表内容は上記の「視線の哲学」の研究の目的(2)に関連する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画のひとつは、サルトル・モデルを軸にして、伝統的な哲学を批判的に検討し、三項関係を本質的なものとする哲学的論理を構築することである。伝統的な哲学として検討されるのは、デカルト(Descartes)、ライプニッツ(Leibniz)、ヒューム(Hume)、カント(Kant)の諸説である。デカルトおよびライプニッツの哲学においては、知覚者=対象=神という三項関係が認められる。ところが、ヒュームおよびカントの哲学においては、神をという項が欠けているため、明らかに二項関係の認知モデルが採用されている。とくにカントの知覚論を三項関係に書き直すことが重要である。 「視線の哲学:知覚の理論としてのサルトルの他者論」ではこの点が示されている。自我と事物の癒合状態を解消するのは他者の「視線」にほかならない。ところが、「デフォルト・ネットワーク」に関する神経科学の実証研究を援用すると、他者から「見られている」という認知は外的な刺激に依存しない自己言及的な認知過程であると考えられる。三項関係とは自己=事物=他者のあいだの外在的関係ではなく認知に内在する関係性である。ということは、「対象」は内的な認知過程の結果として成立すると考えられる。哲学的には観念論的な認知過程である。カントに代表される従来の哲学的観念論は独我論と結びついてきたが、観念論はむしろ他者の存在を含むものであることがこの研究によって示された。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究計画は「模倣」をテーマにして近年の認知神経科学の研究成果を検討し、それを自己=他者=対象の三項関係モデルでで理解することによって、このモデルの有効性・説明力を示すことにある。主題を大きく拡張し、より一般的な社会的関係性を考察する。「模倣」の一種である「共感」をテーマにし、行動経済学および神経経済学の研究成果を主たる検討の対象とし、自己=他者=対象の三項のうち最後の「対象」を物件ではなく人格とした場合の事例を取扱う。 他者1に対する他者2の不正な行為に対する怒りの発生をもとに社会的な罰則等の制度が他者の視線が作り出す三項関係をもとに構築されているという構造を明らかにする。哲学史的には29年度に見送ったデカルト、スピノザ、ライプニッツのシステムを素材にしてこの計画を遂行する。特にスピノザの倫理学およに政治哲学を参照し、道徳的規範や社会制度の生成を三項関係にもとづく感情の側から明らかにする。 三項関係モデルの道徳的な含意をさらに追求するために、現代の道徳心理学および発達心理学の検討を研究計画に追加する。また三項関係に起因すると思われる感情が重要な分析対象になると予想されるため、スピノザの感情論を現代のアフェクとの理論と対照させながら検討する。 以上のことにより、三項関係のモデルを哲学史の読み直しに応用するとともに、学際的な研究として総合するという本来の研究目的を規模を拡大して遂行する。
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