2016 Fiscal Year Research-status Report
近代英国道徳哲学における合理主義と感覚論の帰趨:ヒュームとコモン・センス学派
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16K02134
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
矢嶋 直規 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10298309)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ヒューム / バトラー / スコットランド啓蒙思想 / 近代合理主義 / イギリス経験論 / 道徳感覚 / 自然宗教 / トーランド |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は本研究課題の開始年度に当たるが、所属研究機関からの研究期間と重なったため、9月以降は米国プリンストン神学大学スコットランド哲学研究所に滞在し、所長のゴードン・グレアム教授、およびエディンバラ大学神学部教授デーヴィッド・ファーガソン教授と共同研究を行うことができた。とりわけヒューム哲学成立に果たした、ジョン・トーランドの理神論とロック、ヒュームの関係を手掛かりに、ヒューム哲学がロックの影響のもとで成立しながら、理神論的な方向に向かわなかった理由を考察した。その際、サミュエル・クラークらの英国合理論とそれへの批判として展開したジョゼフ・バトラーの自然宗教論に注目し、ニュートン主義に基づく神の宇宙論的存在証明への批判が、ヒュームが合理主義を受け入れなかった理由の一つであることを解明した。さらにヒュームが合理主義への批判的視座をバトラーによる自然神学批判から受けていることを、これまであまり知られていなかったクラークとバトラーの初期書簡に基づいて解明し、米国プリンストン神学大学スコットランド哲学研究所主催の二つの国際会議・学会で発表することができた。これらの成果は、国内における三つの学会大会においても発表した。またトーラントの主著の翻訳の書評、関連事項の辞典項目を執筆した。本年の研究成果は、次年度のヒュームにおける自然宗教論の考察のための重要な手がかりとなると考えている。なお本年の研究は本研究課題の発想の元となった報告者の別の科研課題『研究課題名、イギリス道徳感覚学説とヒューム道徳哲学の成立:自然から規範へ』基盤研究(C)23520037に基づき、それを発展させる仕方で実施することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2016年度は、近代イギリス哲学の発展を主導した合理論と感性論の対立が、ニュートン主義および理神論との関係を軸に展開したことを、サムエル・クラークおよびジョゼフ・バトラーの書簡に基づいて論証することができた。この研究成果は本研究課題に新たな発展の方向性をもたらすものと考えている。また当初の予定を超えた回数の国会学会、国際学会での発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は、2016年度の研究成果として得られたヒューム道徳哲学成立に果たした自然宗教論争の背景をさらに詳細に検討し、ヒュームの『自然宗教に関する対話』の解明に取り組む。プリンストン神学大学ゴードン・グレアム教授、およびエディンバラ大学デーヴィッド・ファーガソン教授らとの国際研究連携をさらに深める。ジョゼフ・バトラーの道徳哲学をサムエル・クラークの合理主義と対比させて検討する。その成果を国内・国外の学会において発表する。
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Causes of Carryover |
2016年度夏よりプリンストンで在外研究を行っているため、研究費をその滞在費に充当しているが、11月の途中で残額が少なくなったため以降の分は次年度まとめて精算することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
プリンストンでの滞在費に充てる予定である。
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Research Products
(10 results)