2018 Fiscal Year Research-status Report
西周の「哲学」の再検討を通じて実証哲学を新たに展望する
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16K02140
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
安孫子 信 法政大学, 文学部, 教授 (70212537)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 西周 / 訳語「哲学」 / オーギュスト・コント / 実証哲学 / 科学史 / 日本の近代化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度には西周が「哲学」ということで決定的な影響を受けたコント実証哲学に、西の場所から遡り、西が捉えたその全体像を、前年度に確認したその不十分な面以上に、今年度はあらためてその積極的な面で整理する作業を行った。その成果は次の二つの口頭発表で明らかにした。 “L’introduction de la philosophie occidentale au Japon par Nishi Amane et la nature”(2018年11月19日、国際シンポジウム〈日本哲学入門〉、パリ・ナンテール大学)。および、 “Amane Nishi et l’histoire des sciences”(2018年12月8日、国際ワークショップ〈実証哲学と科学史〉、法政大学)。ここでカギとなるのは、科学というより科学史と哲学との関係である。その科学史がとくにコント以降、広く哲学で枢要な役割を果たしていったこと、かつ、その意味で、多くの哲学を実証哲学と呼んでよいということを、共編著『ベルクソン『物質と記憶』を再起動する』(共編著、2018年12月、書肆心水)に収めた論文「ベルクソンの実証的形而上学をめぐって」で別途、論じた。ここでは西の名前を直接引かずに、もっぱらベルクソンに即してであるが、結果として、西の仕事が、コント以降の、大きな実証哲学の流れに根差したものであって、彼の「哲学」は、日本の文化的現状や特殊性を踏まえながらも、大きな世界的な視野からのものであったことが示唆されたのである。違う研究プロジェクトに属する仕事であるが、共著『新・江戸東京研究: 近代を相対化する都市の未来』(2019年3月、法政大学出版局)に収めた論考「江戸東京のモデルニテの姿―自然・身体・文化」では、西の仕事が、今度は広く、近代日本の根本課題に連なるものであることがやはり間接的に示唆されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度には個人で行うこの科研費課題研究とは別に、本務校全体が担う、文科省研究ブランディング事業に採択の全学研究事業に、プロジェクト・リーダーとしてかかわらなければならないこととなり、その後者の枠で、年間に、国際シンポジウムを2つ、国内シンポジウムを1つ、公開研究会を3つ責任者として執り行い、また共著1冊、編著2冊の公刊も行うなどして、かなり忙殺される結果となってしまった。そのため、科研費課題研究の最終年度であったにもかかわらず、一定の前進以上に、この研究での諸成果の肝心の取りまとめを終えることはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
幸い、研究期間の1年間の延長が認められたので、研究補助金の残額はわずかではあるが、与えられた期間を最大限有効に用いて、研究成果全体の取りまとめを図って行きたい。その際の課題は、1.西周が「哲学」と名付けたものの内実を出来る限り正確に明らかにすること(それは一般に哲学と呼ばれているものではなく、実証哲学に大きく影響された、ある特別の哲学のありかたである)。2.西周が名付けた「哲学」がそのような意味であり、そのような「哲学」理解から、彼がもろもろの日本語哲学術語を定めていったとしたとき、日本「哲学」、あるいは日本「哲学」史はどう理解されるべきものとなるのかを明らかにすること。3.このような、西周の「哲学」が近代化に向かう当時の日本に持ったはずの意味、また現代の日本や、さらに現代の世界に持ちうる意味を明らかにすること。これらの諸点を、これまでの研究成果に基づけて論じていくことを、最終段階、今後の、研究課題としていきたい。
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Causes of Carryover |
2018年度、この個人科研費課題研究に加えて、本務校が行う全学研究事業(文科省研究ブランディング事業)に、急きょ、責任者の一人として参画せざるをえないこととなり、時間的に、科研費課題研究を当初の計画通り進めることができなくなった。あと1年の猶予を活かし、海外から招聘者を得ての研究集会をさらにもう一回開催したいと考えている。
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Research Products
(5 results)