2016 Fiscal Year Research-status Report
暗黙知の認知現象学的研究:人間性の自然化可能性を探る
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16K02144
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
長滝 祥司 中京大学, 国際教養学部, 教授 (40288436)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 暗黙知 / 身体性 / 自然化可能性 / 認知現象学 / 身体動作 |
Outline of Annual Research Achievements |
現象学が身体性や志向性という概念を使って明らかにしてきたように、人間の日常経験は意識されない知覚や行動が多くを占める。また、そうした知覚や行動はある種の技能によって支えられている。言葉で表現することが難しく、あまり意識に上ることのないこの技能は暗黙知と言える。本研究は、日常経験と心身の総合的な技能である暗黙知の自然化を企図する。本研究の目的は、認知現象学を理論的支柱とし、(1)人間の日常経験に関する自然化の方法を拡充深化しつつ、(2)従来の暗黙知概念を鋳造し直し、これらを通じて(3)人間性の自然化可能性について新たな見解を提示すること、である。本年度の計画は、主として(1)を遂行するための実験パラダイムの構築と実験に使用するビデオ等の作成を行った。具体的には、数百人程度の被験者に心的傾向に関わるアンケート調査を「状態特性怒り表出尺度目録」を用いて行い、その中から、怒りを表出する傾向にある者と怒りをもたない傾向にある者をそれぞれ、標準偏差1以上で各数名程度を抽出した。抽出した被験者には、指定した作業課題を行ってもらい、その様子をビデオ撮影し、実験の目的に合わせて適切な場面を選択し、適切な長さに編集を行った。また、当初の計画では後半に行う予定であった(3)についての研究を進めた。その中でも特に、人間と機械の関係や人間の機械化をめぐる倫理的な問題について、「被傷性」(vulnerability)という概念に基づいて検討した。また、人間の身体性について触覚性と被傷性の観点から考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画は、4年間を通じて遂行する実験パラダイム(本研究では二つの実験パラダイムを用いて研究を遂行する予定であるが、そのうちの一つ)の構築と、それにもとづいた実験の遂行を主眼としていた。前者については、実験に用いるビデオデータ等の基本的な道具だてを作成することができた。また、研究協力者の山田純栄氏の大学院生が、このパラダイムの一部を用いた実験を行った(申請者にとっては予備実験的な意味をもつものである)。とはいえ、本研究の実験を本格的に遂行するところまでは、計画が進まなかった。一方で、当初の計画では研究予定期間の後半に行う予定であった、人間性の自然化可能性と、人間と機械との関係をめぐる倫理的な問題についての研究に着手し、いくつかの成果を発表することができた("Touching the World as It Is" in Humana.Mente: Journal of Philosophical Studies, "Humanity, Philosophy and Technology" at 4S/EASST CONFERENCE BCN-2016, "Embodiment and Sympathy: Machine's Vulnerability" at 19th Annual Conference of the Society for Phenomenology and Media)。これらを勘案して、おおむね順調に研究が進展しているという自己評価に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の三つのことを遂行していく。①平成28年度に作成した実験パラダイムにそって実験を遂行し、データを収集していくこと、②もうひとつの実験パラダイム(サッカーの試合の映像をとり、ゴールに至るまでの直前5秒程度の映像を抽出する。その映像データの解析と行為者本人による言語的記述分析を行う)を構築し、実験に着手すること、③認知科学的スキルサイエンス、エスノメソドロジーや心の哲学による他者論などの概念を精査し、現象学の概念との比較対質を通じて、人間経験の自然化の方法論を洗練すること。以上の成果は、国際学会での発表、ジャーナルへの投稿、国際的研究協力プロジェクトチームによるアンソロジー、申請者の単著などとして公表する。
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Causes of Carryover |
共同研究者(京都大学大学院医学研究科:山田純栄氏)と研究打ち合わせを3月に行う予定であったが、双方のスケジュールの都合で開催ができなかったため、若干の残金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
共同研究者(京都大学大学院医学研究科:山田純栄氏)と研究打ち合わせに使用する予定である。
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