2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02145
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
中川 明才 同志社大学, 文学部, 教授 (50424974)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ドイツ古典哲学 / フィヒテ / 法概念 / 道徳意識 / 道徳的自然 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究では、共同性の概念をめぐって、ドイツ古典哲学において指標的な理論を提示したと考えられるイェーナ期フィヒテの哲学体系を研究対象とし、複数の自我間の共同性の体系的原理としていかなるものが提示されているかを確認した。そのために取り扱ったテクストは、『自然法の基礎』(1796/97年、以下『自然法論』と略記)と『道徳論の体系』(1797/98年、『道徳論』と略記)である。 まず『自然法の基礎』に関しては、理性的存在者としての人間存在の相互作用を基礎づけるものとして導入される法概念について考察を行うとともに、同概念の適用可能性の演繹という試みのもとで見出される、法関係における認識的相互作用(いわゆる「承認」)の諸制約について究明した。これらの考察の結果、理性的存在者間の相互関係はただ理性的にのみ保持されること、言語や仕草を介した他者からの理性的な働きかけは眼前に存在する事物を人格とみなす認識およびその認識を引き起こす自我―客観における理性性の現前によってのみ可能となることを明らかにし、その成果を論文「人間であることを証するもの――フィヒテ『自然法の基礎』第二部の一解釈――」にまとめた。 『道徳論の体系』に関しては、同著作の課題である道徳性の演繹が共同性における強制の内面化という企図に関わることに注目し、その企図の概要と帰趨について究明した。究明の結果、自由な者同士の相互関係に不可避的に伴う承認への外的強制という契機を、自立性や自由といった自我性の原理に適ったものとする強制の内面化は、自己限定への自然本性的な欲求を、自立性の理念に従った理性的な自己統御のもとにもたらすという、理性的存在者の道徳意識における自然的なものと理性的なものとの総合によって成就されることを明らかにした。またその成果を論文「フィヒテの実践哲学における「道徳的自然」」にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、カントと並びドイツ古典哲学を代表するJ.G.フィヒテの前期(イェーナ期)の哲学における共同性の概念に関する研究を通して、同時期のフィヒテの体系構想を踏まえつつ、歴史的・体系的文脈という点でより忠実で整合的な文献読解を提起すること、およびその読解を通して、フィヒテがカントの批判的超越論哲学の継承という枠組みにおいて、「自我」の自己関係的原理に基づく理念(叡智的・人格的世界)と現実(経験的・自然的世界)との合一によって指示した、人間的主観間の相互関係に留まらない共同性の新たな可能性を、特に18世紀末ドイツにおける思想状況に即して究明することにある。 この目的に対する現在の進捗状況としては、フィヒテの体系構想が第一哲学とその応用部門である実践哲学から成ることを上で、実践哲学の根本概念である共同性の概念が法概念ないし法関係として展開されること、また法関係における強制を伴った自由の状態が、有限な理性的存在者の道徳意識に内面化されることを通して、自我性ないし自由の理念に相応した精神化された自然本性(いわゆる「道徳的自然」)として捉え直されることまでを解明した。 これらの成果のうち、法概念に関する研究は平成28年度に実施を計画した内容に相当する。道徳意識に関する研究はもともとは平成30年度に実施する予定であったが、フィヒテの体系構想により忠実な仕方で考察を進めた結果、法論に直接後続する道徳論の企図を明確する必要が出てきたため、先取りして着手した。なお同じく平成28年度に行う計画であった『学者の義務』の読解と考察は、今度の進捗具合に応じて、平成30年度に改めて実施の予定である。以上のような研究成果ならびに研究計画の若干の変更を踏まえ、現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降の研究計画に関しては、若干の変更はあるものの、基本的に当初の予定通り進めることとする。 平成29年度は、共同性の基礎に見出される理性的存在者固有の意識構造に関する研究を行う。研究の推進方策としては、道徳意識における満足・不満足の感情、および理性的存在者同士の相互関係における確信をめぐる対立が論じられる『道徳論の体系』(1798年)を重点的に読解するとともに、そうした読解を理論的に補強すべく、同時期の第一哲学に関する最重要文献である『新しい方法による知識学』(1796-99年)の読解を通して、確信の成立に関わる意識の構造分析を行う。 平成30年度はフィヒテにおける共同性概念の拡張の可能性について究明する。より具体的には、法関係と道徳意識に共通して見られる強制と自由の結合を、自然的なものと精神的なものとの総合として捉え直すとともに、その総合のあり方を解明する。研究の推進方策としては、理性的存在者の共同性に関する種々の概念を、体系構想に即して考察し直すとともに、哲学の各部門における自然概念の位置づけの変化の追跡、カントをはじめとする同時代の法論や道徳論との比較を通して、共同性概念および共同性の基礎を成すものの体系的再構成を行う。 なお平成28年度に実施を計画していた『学者の義務』の読解に関しては、強制と自由、自然と精神、理念と現実といったフィヒテの共同性理論が有する問題構制に収まりきらない、映像や言語の問題を検討する必要が出てきたため、平成30年度に実施するか、あるいは計画を変更するかという点も含め、他の研究実施上の困難が生じた場合と同様、フィヒテの哲学体系に関する先駆的研究を行っているG.ツェラー教授(ミュンヘン大学)や、『フィヒテ全集』の編集に携わったバイエルン科学アカデミー所属のE.フクス博士、I.ラドリツァーニ博士の助言を仰ぐことで、研究体制の整備に努める。
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究に関して文献読解上の難点が生じた場合に仰ぐとしていた国内の研究者の助言や協力を、読解作業の進捗状況に従い、平成29年度に持ち越した。このことに伴い、国内出張の旅費や助言・協力に対する謝金の支出が予定した額を下回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の研究に関して文献読解上の難点が生じた場合に国内の研究者の助言や協力を仰ぎ、そのための国内出張の旅費や助言・協力に対する謝金として使用する。
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