2018 Fiscal Year Research-status Report
私が人々とともに住み、行動する世界の構成と自己の外部への依存の哲学的研究
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16K02146
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
伊勢 俊彦 立命館大学, 文学部, 教授 (60201919)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 因果性 / 感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までの研究は、ヒュームの因果性理解にとっての、社会的な世界における因果性、とりわけ所有の問題に注目して進めてきた。所有の問題が重要である理由の一つは、われわれの日常的な因果理解の中心に、「自分の力」の行使可能性があり、所有という形態をとった物の支配が、「自分の力」の大きな部分を占めることである。そして、所有をはじめとする社会的な世界における因果性の理解は、自分の力のつまり力の行使に対する障害、つまり、主として社会の他の成員が、自分の力が及ぶ領域に干渉や妨害を行ってくるというような事態の不在という想定がある。この想定は、そうした干渉や妨害の可能性が具体的に問題になってくるまでは、明示的に意識されないままであり、その存在を明るみに出すのは、むしろ、自分の力の行使に対する障害という変則事態に出会う際の感情的反応である。この感情的反応を重視することによって、所有という人と物との関係と並んで、人と人(自己と他者)、物と物(環境を形成する事物どうしの連関)の関係の認知のあり方が整理できるという見通しが得られる。今年度は、この見通しに基づき、所有と並んで、ヒュームにおける「自然法」の一つである、約束をテーマとして取り上げ、約束を通じて互いの行動が予測可能になる前提、また、この前提が破れた際の感情的反応に着目して成果をまとめた。また、こうした非明示的な想定が破れる事態に注目することによって、赦しや和解といった、現代社会において重要なテーマにも接続していける展望が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画中、日常経験の世界像の構成については、主体と社会的世界、身体と物質的世界のインタラクションに着目し、変則事態に対する感情的反応と因果理解のあり方との関係を軸に、一定の見通しを得たが、もうひとつの目的とした懐疑の問題の解きほぐしについては、解明が進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
社会的な世界における因果性理解のもとにある、他の社会的成員の行動についての想定が破れることは、われわれの日常的世界の秩序の認識に亀裂が入る事態の一つであると言える。懐疑の問題は、こうした実践的な脅威とはやや位相が異なるが、やはり、われわれの日常的認識が不安定になり、疑問に付される事例である。日常的認識の前提の揺らぎ、危機という点に注目することを通じて、これまでの研究に懐疑の問題を接続することを試みる。
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Causes of Carryover |
(理由)研究全体がやや遅延気味のため、残されている研究課題を遂行するための経費の支出をまだ行っていない。 (使用計画)関連する書籍等資料購入の他、日中哲学フォーラム(9月、中国・広州)等での研究発表旅費の支出を予定する。
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