2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02153
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Research Institution | Kobe City College of Technology |
Principal Investigator |
手代木 陽 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (80212059)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 可能性 / 可能性の補完 / 現実存在 / 様態 / 内在的様態 / 汎通的規定 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドイツ啓蒙主義のスピノザ哲学の受容・批判を研究するに先立って、今年度は数年来継続しているヴォルフ哲学の原理的研究を行った。ヴォルフの哲学(存在論)は基本的には矛盾律と充足根拠律に基づく「可能性」の哲学であり、存在者(ens)は「可能なもの」としてその本質によって成立する。一方現実存在はその可能性からは導出できず、何かが付加されることで成立するがゆえに「可能性の補完」と称される。他方ヴォルフは現実存在が存在者に内在する「様態」であるとも述べている。「可能性の補完」としての現実存在が同時に「様態」でもあることがどのようにして成立するかを解明することが課題となった。 ヴォルフによれば現実に存在する事物は汎通的に規定された個体であるが、個体は可能的世界においてすでに存在可能であり、現実に存在するために「最後の規定」が加わるという解釈や現実存在が全規定の総括であるという解釈は成り立たない。現実存在は存在者の本質にその何性を規定する諸規定の系列に属するいかなる規定をも付加することのない特殊な様態として位置づけられている。この点においてヴォルフは後期スコラ哲学のドゥンス・スコトゥスの思想を受け継いでいる。 ドゥンス・スコトゥスは現実存在を概念規定における付加を含まない「内在的様態」の一つと見なしている。ヴォルフが現実存在を可能性に何らかの規定を加える「補充」ではなくたんなる「補完」と称したのもこうした現実存在の特殊性を踏まえていたためと考えられる。カントは事物が現実に存在するためにはその可能性以上に何か或る規定が付加されることはないと考え、ヴォルフを批判したが、ヴォルフの「可能性の補完」としての現実存在はむしろ「存在は実在的な述語ではない」とするカントの思想に近いものであることを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況については、当該年度の課題であるヴォルフの「可能性の補完」としての現実存在について研究発表を行い、論文として発表する準備ができたため、概ね当初の計画通り進展していると言える。ただ当該年度の成果が本研究課題に対していかなる意味を持つかについては、今後の研究の進展において明らかにされると考えている。 また当該年度の研究の反省として、ドイツ啓蒙主義のスピノザ哲学受容の特徴を知るためには、イギリスやフランスの啓蒙主義とは異なるドイツ的啓蒙の独自性を理解する必要があり、そのためにはドイツ啓蒙主義全体の展開の概観とその特徴を把握することが必要であることが明らかになった。 さらにスピノザ哲学の受容は主著『エチカ』の幾何学的方法や神即自然という思想の受容が中心となるが、著作によってその受容や影響には差異があるはずであり、初期のドイツ啓蒙主義においても必ずしも批判的な受容ばかりではなかったはずである。どの著作がどのように受容されたかについて個別の検討する必要があることが明らかになった。今年度はこうした研究を中心に進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツ啓蒙主義全体の特徴について、W.シュナイダースの『理性への希望』やE.ヴァイグルの『啓蒙の都市周遊』などの研究書を用いて考察する。またスピノザ哲学がドイツ啓蒙主義においてどのように解釈(改釈)されたか、なぜそのような解釈が生まれたのか、スピノザ哲学と所謂「スピノザ主義」とはどのように相違するかを、R.オットーの研究書(Ruediger Otto, Studien zur Spinozare- zeption in Deutschland im 18.Jahrhundert, Frankfurt am Main,1994)やE.シュールマンらによる編集の論集(Eva Schuermann, Norbert Waszek, Frank Weinreich(hrsg.), Spinoza im Deutschland des achtzehnten Jahrhunderts, Stuttgart-Bad Cannstatt, 2002)などを用いて考察する。 その上で1720年代のヴォルフとピエティストとの論争を、ヴォルフの『事物の知的な連結と運命的必然性との、また予定調和説とスピノザ説の差異に関する明らかな研究』、ランゲの『無神論及び無神論を生み、促進する古今の偽哲学、特にストア、スピノザ、ヴォルフのそれに対する、神と自然宗教の大義』などの著作をを中心に考察する。特にピエティストがどのような点においてヴォルフの哲学をスピノザの哲学と同一視したか、これに対してヴォルフが自らの立場とスピノザの立場とをどのように区別したかを平尾昌宏氏の論文(「啓蒙期ドイツのスピノザ主義―ランゲ‐ヴォルフ論争から―」、スピノザーナ5, 2004年所収)などを参考にして解明し、両陣営の批判の要点を明らかにする。
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Causes of Carryover |
当該年度購入した図書(洋書)が予定より安価で購入できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究に必要な図書で未購入の図書の購入に充てられる。
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