2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02153
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Research Institution | Kobe City College of Technology |
Principal Investigator |
手代木 陽 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (80212059)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自由 / 必然性 / 充足根拠 / 選択意志 / 普遍的宿命論 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度はヴォルフのスピノザ批判の妥当性を「自由と必然性」という観点から、『ドイツ語形而上学』『自然神学』『神学部註解』を中心に考察した。当初はピエティストとの論争に関する著作を中心に研究を行う予定であったが、ヴォルフ自身のスピノザ理解を短期間で知るためには論争の後に著された『自然神学』第二部を読むことを最優先すべきであると考えたため、予定を変更した。ヴォルフは『ドイツ語形而上学』において自由を「より好ましいものを自らの選択意志によって選ぶ能力」と定義する。ヴォルフによれば「より好ましいもの」という根拠に基づく決定は必然的ではあるが、可能なもののうちいずれを選ぶかは本質的に決定されていないから、決して自由と矛盾しない。一方『自然神学』においてヴォルフはスピノザを「普遍的宿命論者」として批判する。その要点は「すべてのものは神の本性の必然性から決まった仕方で存在や作用へと決定され、それ以外のいかなる仕方でも生み出されない」ということである。しかし『神学部註解』によれば、ピエティストたちはヴォルフの主張する充足根拠に基づく事物の系列が「無限の前進」であり、これをスピノザ同様の「機械論的宿命論」と見なして批判した。これに対してヴォルフは人間の行為には必ず先行する充足根拠があり、これなしには道徳論は成り立たないと反論する。また事物の系列はそれ以上の根拠を持たない第一原因があり、無限の前進ではないと反論している。確かにこの第一原因は神の意志であり、神には複数の可能的世界からこの世界を選ぶ自由があった。しかし神によって選ばれた世界の因果系列上に存在する偶然的存在者である人間の自由はどのように確保されるであろうか。確かに根拠がなければ人間の行為に責任を帰することはできないが、人間の自由についてヴォルフは満足に解答できていないように思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は9月に実施した広島大学での集中講義の準備や、研究分担者として科研費の支給を受けている他の基盤研究(B)が最終年度を迎えたため、年度内中に研究実績を作成することに大幅に時間を要し、当該研究に十分な時間を取ることができなかった。そのため当初はピエティストとの論争に関する著作を中心に研究を行う予定であったが、ヴォルフ自身のスピノザ理解を短期間で知るためには論争の後に著された『自然神学』第二部を読むことを最優先すべきであると考え、予定を変更した。当該年度は『自然神学』第二部のスピノザ批判の部分(671節~716節)を訳出(ラテン語)したが、詳細な分析はまだこれからという段階である。なお前年度に発表した「ヴォルフにおける「可能性の補完」としての現実存在」と題する発表原稿は、加筆訂正した上で11月に日本ライプニッツ協会の第9回学会で再度発表し、現在同協会の雑誌への投稿を応募中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は『自然神学』第二部のスピノザ批判の分析に集中したい。まずこの部分には上で述べた「宿命的必然性」に対する批判がある。ヴォルフはさらにスピノザがこうした必然性を証明できなかったと述べている。ヴォルフの批判はスピノザの学説そのものの内容を批判するのみならず、その「証明方法」の批判が含まれている。ヴォルフによればスピノザはすべてのものが神の本性の必然性にしたがって帰結することを証明しようとしたが、それは知性がものの本性を示す定義から必然的に帰結することを導出することによる。しかしスピノザは無限の思考や延長というたんに想像された概念を神の属性として定義した。すなわち無限の思考や延長を神の本性にしたがう実在性と見なしたがゆえに、本来帰結するはずのない必然性が導出されたのである。ヴォルフは自らが提唱する厳密な定義に基づく「数学的方法」に照らしてスピノザの証明方法を批判しているのである。『自然神学』第二部には「宿命的必然性」の批判以外にも複数の定義の曖昧さに対する批判が含まれている。たとえば「実体」と「それ自身で存在するもの」の混同、「本質構成要素」と「属性」の混同、「属性」と「様態」の混同などに関する批判である。この点についてはKonrad Cramerの論文(Christian Wolff ueber den Zusammenhang der Definitionen von Attribut,Modus und Substanz und ihr Verhaeltnis zu den beiden ersten Axiomen von Spinozas Ethik)を参照にしながら、研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
(理由)当該年度購入した図書の数が予定より少なかったため。 (使用計画)次年度の研究に必要な図書とノートパソコンの購入に使用する。
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Research Products
(1 results)